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舞踊評論家・日下四郎氏の連載コラム「ダンスレビュー」

ダンスレビュー

渋くかつ生きのいい現代舞踊を堪能
―ダンス&パフォーマンスM 山元美代子ダンスパフォーマンスvol.13「軽い記憶」「SCENE13」

1月23日(金)19時開演 新宿 スペース・ゼロ

日下 四郎 [2009.2/1 updated]
 たっぷりひたって正味1時間15分。久々に日本における現代舞踊の、それもいちばん生きのいいトロの部分を、こころゆくまで味あわせてもらったような後味の舞台。作品は2本あり、最初の「軽い記憶」は2007に初演された10分強の短編。ただし中味は濃い。
 はじめ暗闇の中から、下手左縁のホリゾント側に、多彩な花や玩具で飾られ、垂直に下がった梯子が浮かび上がる。これがブラック・スペースに施されたイントロ部分の光景で、サウンドは一切なし。しばらく見せた後そのまま消える。
 再びフロアに明かりが入ると、そこは半間ぐらいの幅で、周囲を矩形に囲んだプール状の凹地。まず周辺の縁の上をダンサーが一人歩きまわり、ついでもうひとり、中央の薄暗い部分に椅子によりかかっていた別のダンサーが、前者からバトンを引き継ぐ感じで、空間での身体表現を続ける。
 このあとさらに男女のペアが下手から現れ、それ以後は以上4人のダンサーが、空間をタテ・ヨコに交差しながら、時間いっぱいにテンションの高いさまざまなダンスを踊る。そのためのビート・ベースのサウンドは、すべて振付者自身の選曲によるもの。こうしてダンス三昧の見本のようなこの短編は、最後にもう一度イントロに出た梯子を暗闇に浮かびあがらせて終わる。
 どこまでも徹底した抽象ダンスであり、要はソロ、ドゥオ、トリオ、あるいは群舞と、出演者をさまざまな形にくみあわせ、ダンス表現の基本のフレーズを提示したような作品だともいえる。しかしそれが見ていて実に楽しく、どこまでも飽きさせないのは、これら「ひと癖もふた癖もある」(プログラム・ノート)出演者たちの技量が、揃って水準をマークする達者ぞろいだからであり、つまりは彼らを振付けた山元の、表現者としての実力が見事にダンサーに乗り移っている成果であると断言できる。
 観終わって山元美代子の徹底した職人芸と、底光りしたストイシズムを感じた。この間における唯一の“あそび”は、イントロとクロージングの2度にわたって出た梯子の色彩ぐらいのもの。そして作者はこの短編に、あえて「軽い記憶」というタイトルを与え、名づけた。イマジネーションの刺激によって、観客のさらなる参加を期待した、したたかな作者の仕掛けがにくい。
 さて作品1で展示した身体運動の基本図を、ここでいっきょに開放し、ダイナミックな広がりへと爆発させたのが、次の「SCENE 13」である。前者の多彩な出演者(冴子、桜井マリ、木許恵介、山元美代子)の4人に、さらに達者な別の4人(ハンダイズミ、栗原弥生、村松千恵、山根和剛)を加えた、計8人のダンサーを自在に動かし、1月から12月という、ちょっと見には歳時記風の構成で、そのしめくくりに本人が踊る13月めのソロを加えた1時間ワイドの作品だ。
 広い空間のホリゾントには、筆勢するどく筆字で、“春夏秋冬”と書かれた、巨大な4文字(書道家:嶋田彩綜)が見える。しかしこれは単なる美術セットではなく、作品のテーマとしての、いわばメンタルな指標の意味を兼ねそなえている。この発想や設定にも、アーティスト山元の、あくまでも身体だけを中軸にした創作姿勢、心底にうずまくダンスへの一途な信念を見る思いがした。
 それはまず幕開けの章である1月の“事始”にも、はっきりみてとれた。真っ暗な中から、フロアの上に8人のダンサーが積み重なった人体塑像。それはひとりひとりが順次はがれるように崩れ落ちて、最後は全員がフロアの上に飛散する。肉体はどんな形姿や感情の表現にも耐え得る、最強のマテリアルであることをデモンストレートするようなシ-ンにもとれた。
 こうして作品「SCENE 13」は、それぞれ旬のダンサーの8人が、真正面にかかる筆字の4文字と対峙しながら、曰く“出芽”、“闊歩”、“夏の狂想曲”、“蚊帳の外”、“意味のない動き”、“初冬”等々、自然という四季のなかのエッセンスを摘み取り、奔放自在な抽象ダンスへと写し変えていくのだ。後半では特にハンダイズミの活躍が光った。
 1990年に第一回の〔山元美代子ダンスパフォーマンス〕がスタートして、はや18年。その間ダンスを中枢に据えた作品自体の深み、渋さ、面白さの点で、いよいよ味わい深く冴えわたっている。心強いことだ。コンテンポラリーという美句に隠れて、優れたダンサーと作品が少なくんっていく昨今、それだけに山元美代子の活動は真に貴重である。
 最後に今回の作品で気が付いた細かい点をあげれば、まず全体の流れだ。各章は独立しているとはいえ、やはり切れ切れにならないよう、いまひとつ演出上の工夫があってもよかった。また衣装にも細心の神経が必要。クロージングのソロで、山元が踊る下半身のパンタロンは、少々裁断が太すぎたのではないか。地が深紅の染めでなければ、また見た目がちがったかもしれないが。全体の質の問題で希望をいうと、無駄を省くのはいいが、多少のあそびやふざけ、無駄の活用は、いますこし導入してもよかったかも。今後の問題でもある。以上の苦言は、もちろんあくまでも中軸部分であるダンスそのものを、とことん大事にしたうえでの話であることは言うまでもない。ますますの健闘を祈りたい。
(1月23日所見 スペース・ゼロ)