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ニュース・コラム

舞踊評論家・日下四郎氏の連載コラム「ダンスレビュー」

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お化粧直しをしたCDAJの「現代舞踊フェスティバル」 8月26日 メルパルクホール

日下 四郎 2011年8月30日

CDAJ (現代舞踊協会)の年次公演「現代舞踊フェスティバル」としてみるなら、まる2年越しの東京での開催である。 1980 年に虎ノ門ホールでスタートを切ったこの協会の看板シリーズは、すでに過去 30 年の歴史を持つ。年1回列島各地から実力ある舞踊家が、それぞれ最新の創作を携え、文字通りメッカともいえる東京で、その成果を競いあうのである。優秀作には、恒例の河上鈴子フェスティバル賞も与えられる。こうして1昨年には 30 周年の節目を記念して、4つの受賞作の再演を含む、計 13 作品の華やかなプログラムが、初台にある新国立劇場の中ホールで開かれた。

さらに昨年はその勢いで、シリーズとしては初めての試みである地方への進出を計画、兵庫県は西宮市の芸術文化センターでの公演を実現する。この企画に毎年用いられてきたキャッチフレーズ「地域文化の華、一堂に競う」のスペシャル実行版というところか。幸いこの英断が功を奏して、昨今ますます厳しさを増してきた文化庁の助成公演の対象からも外されることなく、地元の貞松・浜田バレエ団の賛助出演というフロクまでついて、無事所期の目的を達成することが出来た。

しかし周辺では明らかに時代が動いている。昨年の暮からはこれも短かくない歴史を持つ CDAJ の通年公演〔現代舞踊展〕が、助成金対象からはずされたことで中止となり、さらに年が改まって今年度の新しい 2011 年度予算が難航している矢先、突如 3 ・ 11 の東日本大震災が列島を襲った。すでに公益法人の認可問題や、文化行政・助成金の再配分でもめている最中、これが日本の文化・藝術の行政領域に、これまでにない大きなゆさぶりをもたらしたことは言うまでもない。

そこで登場するのが、今回の〔現代舞踊新進芸術家育成事業〕である。それまでの〔芸術団体人材育成支援〕に代わり、あえて「新進芸術家」に力点を置いた新規の行政方針だ。これに対処して現代舞踊協会は、従来の看板であるいくつかの年次公演を、ぜひとも助成の対象として継続支援されることを熱望、そのメインのプログラム4つを、一括してこの事業の対象として申請した。他の 3 本の企画とは、〔 2011 時代を創る現代舞踊〕、〔選抜新人舞踊公演〕、〔文化庁新進芸術家海外研修員による現代舞踊公演〕である。

その結果起こった大きな変化は、主客のベクトルの大逆転である。これまでのように CDAJ が主催する公演を文化庁が助成するのではなく、これらの企画を文化庁が事業として立案し、その制作を協会に任せるというのである。制作プロセスの実体はこれまでとほぼ同じにせよ、両者の立場にはある種ドラスティックな転換が行なわれたことになる。その決断によって、ようやく助成の問題は従来の形を踏襲して、ひとまず生き延びた。

ただこのため今回の公演には、「文化庁委託事業・平成 23 年度 次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」という肩書きが、はっきりと打ち込まれている。そして会自体のタイトルも、〔全国新進舞踊家による 現代舞踊フェスティバル in 東京〕というのが正式の名称なのである。因みに掉尾の「 in 東京」という 3 文字には、これからは去年の西宮公演の例のように、適宜地方を舞台の開催地に択んでいくという意図が示唆されている。もちろんそれはそれで結構な話ではあるが。

さて、以上が文化庁の委託事業としての「新進舞踊家を育成する4つのプロジェクト」が誕生するまでの凡その経緯であり、したがってこの日の舞台がその第1弾ということになる。ただしその制作内容と組み立てのベースは、これまでの協会の〔現代舞踊フェスティバル〕を踏まえたものであることは、プログラムの挨拶の中で、若松理事長もはっきり明言しているところだ。したがって論評の立場にある筆者にとっては、旧のフェスティバルと比べ、中味の何がどのように変わったか、あるいは変わらなかったか、それを藝術レベルの線上で判断することが、まず第1の設問ということになるだろう。

そこで結論を最初に言っておこう。その答えはイエスであり同時にノーである。どうやらこのファーストランナー、旧作に比べ換骨奪胎とまではいかなかったようだ。以下アトランダムに問題点を併記しながら、各支部から送り込まれた 15 の作品について、その印象を種々述べさせてもらう。ただしお断りしておくが、この文章は委託されて書く受注レポートではないので、1観客としての筆者が観たままの率直な感想であり、また文中言及されない作品や順序の入れ替わり、あるいは字数も長短不定であることを、あらかじめお断りしておく。