D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

ニュース・コラム

舞踊評論家・日下四郎氏の連載コラム「ダンスレビュー」

68

キャンパスに見るダンスへの情熱と将来性:
(毎年この時期に行なわれる卒業公演および一連の創作活動について) 日本女子体育大学 卒業制作 /座・高円寺ダンスアワード ほか

日下 四郎 2012年1月24日

もっともこれとは別に、古くから独自の道を歩んだ学校もある。日本女子体育大学の場合だ。それははるか大正時代に始まる二階堂トクヨの体操塾に由来する体育の歴史だ。戦前にオリンピックで活躍したあの陸上のメダリスト人見絹枝は、ここの三期生の出である。その後塾は日本女子体育専門学校時代となり、さらに戦後はダンスを取り入れた大学制度へと昇格、今日の姿に育った。その際故・江口隆哉が生前長らくここで教鞭をとってノイエ・タンツを実習させた実績は大きく、いまプロの世界で活躍するダンサーで、ここの卒業生である員数の比率はすこぶる高い。

その日本女子体育大学が、1月の中旬に恒例の卒業公演を、なかのZEROホールで公開した。ここ10年形式も定着していて、専任リーダーの指導によるモダン・ダンス、バレエ、ジャズダンス系の5作品のほかに、4年生の有志による自主創作(「英雄マヨネーズ」:いささかおふざけ)と、外部からのプロが振付ける委嘱作品(今年は矢内原美邦の「部屋の右の方向から」:プロにとっては滅多にない大人数を動かせるチャンスだ)がある。会場の規模といい、出場人数といい、1校の学生ダンス公演としては、おそらく最大規模のものであろう。中で大震災を主題にすえて祖国を凝視した松山善弘グループの「heaven」に、もっとも現代舞踊らしい主題と迫力を感じた。

このほかに大学がかかわる1月の公演としては、昨年に引き続き行なわれた『座・高円寺ダンスアワード vol.2 』(「少人数による創作ダンスコンクール」9日)を忘れてはならない。これは 1988 年の古くから、関西の神戸で行なわれてきた「全日本高校・大学ダンスフェスティバル」の向こうを張る、新規の関東版ともいうべき企画で、今年は就実大学、日本大学藝術学部、京都造形大学、北海道大学、埼玉大学、そして招待作品として韓国芸術総合学校、以上 6 大学からの参加があった。いずれも昨年富山で行なわれた第 14 回「少人数による創作ダンスコンクール」で受賞した作品群で、これが目下のところは実質上の支えになっている。

「ダンスの甲子園」という異名さえある先輩格の神戸コンクールは、日本で唯一の権威ある創作ダンスの全国大会で、テレビでもレギュラーに中継されるほど地元では知られ、作品の質の高さにも定評のあるフェスティバルだ。だが現実には、とくに首都圏に住む東日本の人などには、キャンパス関係の人々以外には、ほとんどその存在が知られていない。これは開催地が遠く関西で、やはり挙行地のハンディキャップが大きな障害のひとつであることは間違いない。そこからこの同種のコンクールを東京に定着させることで、一人でも多くの人に、すぐれた創作ダンスの実例を見てもらいたいという有志の願いで、昨年その第1回が座・高円寺という地の利を得て開催されたものである。

学校ダンスと学生による創作ダンスとは、まぎらわしいがまったく別のものだ。若い感性と身体のエネルギーには、底知れぬ創造性が潜んでいる。それを一回きりの舞台で人知れず捨て去る手はない。幸い劇場と大学の協力、そして芸術監督にプロのダンサー竹屋啓子の才知を得て、今回2回目の開催を終えたばかりのこのプロジェクトが、一般の広い関心を呼び、現行するプロの現代舞踊界を刺激しながら、今後回を重ねて順調に育っていくことが、大いに期待される所以である。(ダンスアワード:9日所見、日本女子体育大学卒業公演:17日所見)

日下四郎
日下四郎(Shiro Kusaka)
芸術文化論・ダンス批評・演出
 
本名:鵜飼宏明 京都市出身。
東京大学ドイツ文学科卒業後、東京放送(現TBS)へ入社、ラジオ・テレビのプロデューサーとして数々の番組を送り出す。1979報道制作部長職を経て退社、 故・三輝容子とダンス・シアター・キュービックを設立、13年間にわたりトータル・アッピール展の創作(台本・演出)にかかわる。90年代は淑徳短期大学、日本女子体育大学大学院にあって非常勤講師、主にドイツ表現主義芸術を論じた。現在はフリー・ランス。著書:「モダン・ダンス出航」「太陽と砂との対話」「竹久夢二」「現代舞踊がみえてくる」「東京大学学生演劇75年史」「ダンスの窓から」「ルドルフ・ラバン」(翻訳)など。他に、ビデオシリーズ「日本現代舞踊の流れ」(全6巻)の完成があり、その全テキスト・演出を担当した。