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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

藤井 修治
 
Vol.26 「シンフォニック・バレエのことなど」  
2001年3月7日
 またテレビを見てのことです。4日の日曜日の午後、教育テレビで昨年来日したフランクフルト放送交響楽団の演奏会の録画で、マーラーの交響曲第5番を、夜のN響アワーでメンデルスゾ-ンの交響曲第3番「スコットランド」と、交響曲を2曲楽しみました。コンサートをテレビで見るのは、客席から見えない指揮者の表情などが見えて、ナマとは別 の面白さがあります。画面を見ないで聞くとまた別のイメ-ジもふくらんでくるものです。
 メンデルスゾーンを聞いている間にこの名曲がバレエになっている場面を思い出しました。大振付家バランシンの「スコッチ・シンフォニー」です。スコットランド風の衣裳のダンサーたちが踊りますが、シンフォニック・バレエらしく物語はありません。日本ではスターダンサーズ・バレエ団が上演してます。このバレエは驚いたことに荘重な第一楽章を省いているのです。そのためか明快なバレエになっています。ところがかつて牧阿佐美さんが振り付けした物は全曲を用いており、重厚な魅力がありました。
 演奏会では交響曲や協奏曲などは一部を省略するどころか一音符の変更もできません。ところが振付家は、バレエ音楽だけでなく交響曲などでさえ多少勝手なことをします。作曲家が生きていたら怒るようなこともします。視覚的なイメージを先行させるわけでしょうね。しかしそれでもバレエが面 白ければいいのでしょう。やはりバランシンの「セレナーデ」はチャイコフスキーの弦楽のためのセレナーデの全曲を用いていますが、第3楽章と第4楽章の順序を入れかえています。そのために古典的な形式感は失われますが、叙情性が濃くなったようです。バレエって面 白いものですね。
 古典的な交響曲の多くは4つの楽章からなっているのは御存知のとうりですが、昼間のテレビでのマーラーの5番は表現したいことの多いのか5楽章で、1時間もかかります。この第4楽章のアダージェットだけがとり出されて多くの振付家によってバレエ化されています。ゆっくりと流れて行くので交響曲の1つの楽章だと感じさせません。ベジャールの「アダージェット」は、故ジョルジュ・ドンが得意としていたもの。深川秀夫の「ナルシスト」もこの曲でした。両方とも男性の胸酔的なソロでしたが、男女のデュエットもあります。いずれもが心象風景を描いたりドラマを感じさせたりと変化に富みますが、構築的でないし、音楽の起状にも対応していないので、シンフォニックバレエではありません。
 そもそもシンフォニック・バレエは20世紀になってバレエが芸術として扱われるようになった時に、音楽も優れたものが求められ、既成の交響曲や協奏曲を用いて作られるようになったものだと思います。ディアギレフ・バレエ出身のレオニード・マシーンが1933年にチャイコフスキ-の第5番を用いて作った「前兆」に始まり、プラ-ムスの4番などが続きます。初期には物語が見えかくれしたようですが、バランシンの時代になると抽象美術に対応して抽象的になり、いまではバレエの一つのジャンルとして認められています。
 交響曲を用いたのはもっと古くからあり、18世紀前半にベートーベンの第6がバレエ化されたという記録もあります。今世紀に入るとモダンダンスの祖イサドラ・ダンカンがベートーベンの第7で踊ったとか。ロシア革命後の1922年に、ロプホフがやはりベートーベンの第4で「ダンスシンフォニー」を1回だけ上演したそうです。これを昨秋、日本でNBAバレエ団が70年振りに上演しました。ロシアに残る正確な記録からの再現とのこと。宇宙の運行を感じさせるもので、マシーンに先行するものともいえましょう。シンフォニック・バレエを昇ると振付家たちの音楽とどう対決しているかがわかって面 白いものです。しかし楽しむためには、音楽の歴史や構造を知っておくのが先決です。楽しむのにはそれなりの努力が必要なのです。



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