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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.23 まち全体で支え、 
  誇りとする団体、芸術家を」
2001年 1月29日
 

 昨年の暮のこと、現在私と同じ大学の教授をしている学会の先輩、Nさんとの帰り道のバスのなかのことです(余談ですが、経営学が私の飯の種です)。
 そのバスに一人の西洋人が乗ってきました。と、Nさんと「やあ久し振り、元気?」と話し始めました。なぜ知り合いなのかと聞くと、前に地下鉄の駅で迷っているのを助けて意気投合したのだそうです。
 で、彼を私に紹介してくれました。ドイツのある会社の技術研究所の半導体のエンジニアで、大学の向かい側にある有名な情報通 信関係の会社の研究所と仕事をしているのだそうです。それでいろいろと話をしました(英語です、ご参考まで)。
 半導体や企業経営についてではありません。音楽と舞踊の話です。Nさんは音楽にも造詣が深く、ザルツブルグに行ったり、シューベルトの歌曲のすべてを歌詞カードなしで歌うことに挑戦したりしているのです。そのドイツ人もクラシック音楽が大好きで、話がはずみました。Nさんが、私が舞踊の仕事をしているというと、彼の最初の言葉は「舞踊音楽で何が一番好きか」、でした(音楽ファンらしいですね)。私も急に聞かれて困ってしまい、「うーん、そういう風に考えたことはなかったけど、チャイコフスキーなんかはやはりいいね」と無難に返事をすると、すぐに「ああ、3大バレエね」、と作品名をいうのです。それで「3つのバレエならプロコフィエフ」というと、それも知っているんです。悪乗りして、それではストラビンスキーの3つというと、これもすぐ答えて、春の祭典がとても好きだといっていました(ストラビンスキーはもっといろいろ作っていますが)。
 こちらからバレエやダンス見たことあるかとききますと、今ベルリンに住んでるといってオペラやオペラコミックの話になりました。さらに彼は、ハンブルグのノイマイヤー、シュツットガルトのマーシャ・ハイデのことを持ち出してきたのです。さらに話は日本のニューナショナルシアター(新国立)のオペラハウスにまで広がりました。
 なんでこんなことを書いたのか。ここから2つのことをいいたいのです。
 1つは、Nさんもそうですが、会社づとめの技術者が音楽や舞踊について趣味をもち、海外で仕事だけでなくそういう話ができること。とくにバレエのことをよく知っているのにはびっくりしました。日本のビジネスパースン、とくに男性はゴルフ、マージャン、赤提灯が3種の神器、これができないと付き合えないという有様。
 でも少しづつ芸術に趣味をもつ人は日本でも出てきましたし、バレエをやっていますといっても変な目で見られなくなってきたのは確かです(私も前は会社づとめでした)。
 もう1つ、こちらがもっと大事なのです。ハンブルグやシュツットガルトにはそれぞれまちを代表するバレエ団があって(もちろんそこには国立、州立、市立の劇場があって)、そこにまちが誇りとする振付者やダンサーがいるということです。これはドイツだけでなく、フランス、スイス、オランダなどみなそうですし、イギリス、アメリカでも同じような状況です。アジアにもたくさんあります。とてもうらやましいことです。
 その点、日本ではどうでしょうか、東京、大阪、名古屋、さらに福岡、広島、仙台、札幌、それぞれのまちを代表する、市民の誇りとする舞踊団、芸術家がいるでしょうか。
 もちろん、これはいいバレエ団やダンサー、振付者がいないということではありません。しかし、そのような人達を本当にまちが精神的、経済的に支えているかというと、残念ながらそうはなっていないのです。21世紀中にはぜひそうなって欲しいものです。




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