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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.32 なぜ公演を開くのですか、 
  なぜ踊るのですか」   
2001年6月5日
 

 5月の下旬から6月にかけて、クラシックの経験の長い中堅ダンサーの創作の会を3つ見ました。それは次の公演です。『ナンジョーレアのBEYOND WORDS』(きゅりあん大ホール)、『三浦太紀振付のBONANZAGRAM』(アートスフィア)、そして『畠山慎一のSYMS DANCE KITCHEN』(六行会ホール)。失礼かもしれませんが、大バレエ団の公演とは違って、お客もたくさんとはいえませんし、批評家もそう大勢は見ていなかったと思います。しかし、それぞれにクラシックに基本をおきながらの新しいスタイルへの挑戦が感じられて、私は大変面 白く感じました。でもここでこれらの個々の批評をしようというのではありません。これらを見ながらいろいろと考えたことを書いてみたいのです。
 それは、ある意味では大変に厳しいことであり、あるいは大きなお世話だ、ほっといてくれといわれるかもしれないのです。ただし、この3つの公演に限ったことではなく、むしろそれぞれに見応えがあったので、余計にそれを強く感じたのかもしれません。
 もったいぶった前置きが長くなりましたが、それを質問、疑問の形で提示すると、次のようになります。
 まず会の主催者、振付者に対するもので、『あなたはなぜ、何のため、だれのためにこの公演を開き、作品を上演するのですか』というもの。もうひとつは、出演者に対するもので、『あなたはなぜ、なんのためにこの会に参加し、この作品を踊るのですか』です。第1の質問は、端的にはこの会、あるいはグループの性格はなにか、そして舞踊創造者としてのあなたらしさとはなにかです。大バレエ団や一部のコンテンポラリーやブトーのグループでは、レパートリーや新作のスタイルもほぼ決まっており、ファンもついています。公演にもスポンサーの支援や公的助成も受けやすいのです。もうひとつの方法は発表会形式でお客は父兄や友人などの関係者。これはこれで割り切れるでしょう。しかし、ここにあげた3つの会や作品は発表会ではもちろんないのですが、まだグループとしての性格や評価が定まるには至っていません。
 この辺をどうするか。日本では残念ながら国公立の劇場、民間の劇場にバレエやダンスのグループ、あるいは振付者を専属させる、抱えるというしきたりがありませんので、それを狙うわけにはいきません。つまり、会や作品の評価を高め、多くの人達に知ってもらい、ファンを増やし、スポンサーを探し、助成が受けられるようにすること。もうひとつは、振付者として合同公演や他の団体に作品を提供するようになることです。
 それには、もう少し会の性格、振付者としての特徴を明確にすること、そしてできるだけ多くの人に見てもらい、知ってもらうようにすることです。微力ではありますが、私たち批評家もまめに公演を見て回り、隠れた才能を発見、紹介することが必要です。これはダンサーについても当然いえることで、自分が評価し、取り上げた振付者やダンサーが広く知られ、活動の場を増やすようになるのを見るのは大変嬉しいことです。ただ、残念ながら、ロックミュージックのように路上で演奏していたグループが、ひとつのきっかけでTVにでたり、CDが何十万枚も売れるようになるということは舞踊の場合にはありませんが。
 第2の質問はダンサーに対するものです。ダンサーが会に参加し、あるいは作品を踊るにはいろいろな理由、目的があるでしょう。順不同ですが、出演料のため、その会や作品の主旨や芸術的思想に賛同したため、振付者や共演者と師弟関係とか尊敬しているから、多くの人に自分を見てもらい、売り込むため、などなど。ただ、率直にいって、とくに女性には(出演料が期待できないせいもあるでしょうが)踊りたいからとか、機会があった(声をかけられた)から、持ち出しでも、というダンサーも少なくないような気がするのです。これは振付者にもいえそうです。もちろん、踊る場、作品を発表する場があるというのは大事なことで、それをしっかり利用するべきではありますし、踊ることが好きだというのも素晴らしいことです。でも、それだけではアマチュアです。ただ踊りたいとか、作りたいでなく、もっとしっかり自分をもち、目標をもって、その作品を踊る意味、作る目的を明確にして欲しいと思うのです。とくにダンサーについては、一般 的にいって、なんでこのような著名な力のあるダンサーが、こんな会にでているのか、と思うケースもなくはないのです(客寄せで高い出演料をもらっているのなら結構ですが)。
 一流のダンサーになるには大変なお金がかかります。それを出演料で回収できる人は、とくに女性の場合には極めてわずかです。そうならば、むしろお金がもらえなくても、チケットを負担しても、たくさんの舞台で踊って楽しみたいという気持ちになるのも分からないでもありません。そして、わが国のバレエ(舞踊)界は、それでなりたっているのも事実です。だれもがギャラが無ければ出演しません、チケットはもちませんといったら、多くの公演はなりたたなくなるのではないでしょうか。ただ、男性だというだけでどんなダンサーにもきちんとギャラを払い、女性の場合には遙かに優れていても出演料なし、という状況は正常ではないと思っています。グループや会の収入を増やして女性にも出演料が払えるように、私個人としても、舞踊への公的助成金額を増やしてもらうように、あるいは、公立ホールなどでもっと舞踊公演を企画してくれるように頑張っているつもりです。会の主催者もダンサーに甘えず、できるだけギャラを払うように努力して欲しいものです。もちろん、そうしているところも決して少なくはありませんが。
 またその一方で、これから経験を積む若い人はともかく、とくに力を認められたダンサーが、男女を問わず会や作品の傾向やレベルに関係なく、しかも場合によっては低い役であちこちに顔を出しているケースも、前にも述べましたがよく見られます。たしかにその舞台のレベルは上がるのですが、それよりも本人にとってこれでいいのかなという思いを強くします。もちろん、お高くとまる必要はありませんし、新分野にチャレンジすることも重要ですが、ダンサーとしてもっと作品を選び、自分を大事にしてもらいたいと思うのですがいかがでしょうか。やはり、大きなお世話ですか。




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