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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.33 批評、評論の実効性、 
  その追求は評論家の分を超えるか」
2001年6月19日
 

 先日、踊りに関するサイトを開いている方からメールが入りました。具体的な内容は別 として、趣旨は批評、評論の実効性、効果性についてです。この問題は私も常に考えており、これまでも断片的には触れてきましたし、その意識で活動してきたつもりですが、ここで少し私見をまとめてみたいと思います。
 たとえば企業などの実務の世界では、「あいつは評論家だ」とか「批評家じゃ駄 目だ」という言い方がされます。これは、理屈や批判ばっかりいっていてなにも実行しないことを言います。また、大きな事件が起こったときなど、専門家と称される人がしたり顔で分析し、解説しますが、ではどうしたらいいかにはほとんど触れません。論評・解説するだけなんですね。多くの経済評論家はまさにそうです。
 善し悪しは別として、批評、評論の本質は、対象を分析し、評価、解説するところにあって、対策を考え、いわんや実行することではないというのでしょうか。
 私はそうは思っていません。いいか悪いか、その理由を明らかにするだけでなく、どうしたらよいかを提示し、できれば自ら参加、実行したいと思っています。確かに、これは評論、批評の分を逸脱しているかも知れません。しかし、個人として私はそこにとどまっていたくないのです。
 話を舞踊批評の実効性に戻しましょう。批評が他人を動かし、影響を与えれば、それは効果 があったといえます。
 まず、一般読者に対するものです。ある公演の批評を読んだ人が、それを見る、見ないを判断する情報とすることができれば、それは意味があります。ただ、わが国の舞踊界の実態(公演回数、批評のタイミングなど)から、一部の外来や新国立などを 除きそれはまず不可能です。しかし、その作品、団体、あるいは個々のダンサーなどのアーチストの評価が、次の機会の参考になることはあります。さらに、舞踊に関心の薄かった人に読んでもらい、舞踊そのものについて興味をもってもらう効果 も考えられます。つまり批評や評論はこのような意識で書くことも必要です。ただ宣伝になっては、それは評論家の仕事ではありません。
 次の段階は、その批評の対象者に対するものです。つまり、作品や出演者のいい点、よくない点を指摘するだけでなく、とくによくない部分については、どうしたらよいかを提言することです。これはなかなか難しいことです。作品そのものにしろ、ダンサーの演技、音楽や美術などの要素にしろ、こうした方がいいというのは、よほどしっかりした説得力のある根拠があり、またその点についての専門的な知識がないと、アマチュアの感想になったり、場合によってはまったくピント外れになるおそれもあります。しかし、このようなリスクを抱えつつ、私はそこまでしたいと思っています。ただし、ネックは、それを理解してもらうために具体的に記述する十分なスペースが新聞、雑誌にはないことです。また、改訂再演の機会もきわめて限られています。
 それで、ピント外れでも褒められて気分の悪い人はいない、勇気づける、育てるのが批評の役目だという人もでてくるのでしょう。それはそれでいいと思います(でもできるだけ核心をついて褒めてほしいですが)。自分のために書くという人もいますが、自分のために作品を発表するという人と同じく、私にとってはそれは論外です(もちろんコンクールは別 です)。

  そこで、私の実効性についての関心は、個々の公演というより舞踊界全体に向けられます。ここでは実際に行動につながるという実感があります。もちろん、こうなると自分の無力さを一層痛感することになるのですが。
 私が現在舞踊界に関して希望し、それに少しでも役に立てればと思っているのは、他のところにも書いていますが次の2点です。
1.わが国の舞踊界、舞踊関係者の社会的、経済的地位 が高くなること。
2.舞踊界、舞踊関係者がもっと社会問題に関心をもち、貢献するようになること。
 1については、現在たまたまやらせていただいている全国公立文化施設協会(全国公文協)のアドバイザー、各種の助成の審査委員としての仕事のなかで努力するとともに、大学の教員(経営学)としての発言の場で、社会における文化の重要性、企業の文化支援の必要性などについてその方法を含めて強調するようにしています。また、芸術団体のNPOなども応援しています。
 2については、地球環境、各種災害についても個人的にボランタリリーに活動しているつもりですが、とくに舞踊界として、障害者や年少者、高齢者への高い意識をもってもらいたいと思っています。そして、現実にこれらに対するたとえばバリアフリー公演、あるいは、チャリティー、さらに教育などの活動には、個人として直接協力するとともに、評論家として広く協力を呼び掛けるようにしています。さらに、舞踊界における、あるいは作品における差別 、ジェンダー、セクハラなどの問題についても考えなければいけないと思っています。
 確かに、このような活動が広がり、深まれば、舞踊団体やアーチストとの関係が微妙になることも事実です。親密になることもあれば、その逆もありうるのです。こうなると、公演評などにも影響がでる、あるいはそのような目で見られるおそれは十分にあります。この点は慎重にしなければいけませんが、重要なのは間違ったことはやっていないという信念をもつことです。もちろん、やり方の拙さは自覚していますが。
 私はもう高年ですから、このような活動もあと何年できるか分かりません。あとに続く方々にお願いしなければならないことがたくさんあります。次の私のページには、この点についてお話をしたいと思います。  




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