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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.35 舞踊界を元気づけ、 
  高めるいくつかの要素」  
2001年7月16日
 

 このところ土日にいろいろ考えさせられる会や舞台を見ることが多いということを前回も書きましたが、今回も引き続き6月30日、7月1日の土日の3公演について少し触れておきたいと思います。全集は土2、日1公演でしたが、今週は土1、日2回です。
 土曜日は『田中りゑ舞踊生活50周年記念公演』(メルパルクホール)です。彼女は小牧バレエ学園から松竹音楽舞踊学校で学び、卒業後は国内外で多彩 な活動をしています。率直にいって一流のプリンシパルとはいえませんでしたが、オールラウンドのダンサーとして、また指導者として、多くの業績を残しました。還暦を過ぎているのですがステイン・シェイプ(スタイルを維持)で、今になってもタンゴに挑戦など立派なものです。でもとくに感じたのはこのことではありません。
 松田敏子、島田衣子、佐々木大、李波さんなど豪華なメンバーによる『眠れる森の美女』の抜粋の後のフィナーレです。出演者全員が舞台に登場、主演クラスは得意のステップを披露、客席にアピール。でも最大の主役はいません。と、客席にスポットライト、そのなかにドレスアップした彼女が現れ、花を手にお客さんに渡したり、握手をしたりしながら客席や舞台からの大きな拍手のなか、通 路をとおって舞台に上がります。そうすると上から華やかなテープや金箔などがどっと降り注いで、客席はさらにどよめく、という趣向。
 ばかばかしいとか自己満足に過ぎないと、えらそうなことをいう人もいると思います。でも私はこんな知己稚気あふれる演出が舞踊界を元気づけるのではないか、「きれいね」とか、「スターみたい」といって興奮していた人達には、結構充実した経験であり、思い出になるのではないかと思ったりしたのです。
 次の日曜の昼はまったく違った内容です。それは深川江戸資料館小劇場での『水田外史追悼公演』です。昨年亡くなった水田外史さんは「ガイ氏即興人形劇」を主宰し、独特のペーソスと詩情あふれる舞台を続けてきました。現在振付家として注目されている上田遙さんはその子息であることはよく知られており、彼も自分の舞台に実際に人形を登場させたり、美術でその雰囲気を出したりして効果 をあげています。水田氏の志を継いで「ガイ氏即興人形劇場」を続けている、そこにこのたび上田遥さんが作品を提供したのです。 『カッパのガイちゃんファンタジーワールド』、彼らしくダンスの要素をたくさん含んだ楽しいものでした。それと同時に水田氏の名作といわれる78年初演の『ごんぎつね』が上演されました。きつねと人間の交流を描いたもので、善意の行き違いが悲劇に終わるという結末ですが、演者は後継者である中島咲枝さん、さすがに3000回の上演歴といわれる作品だけに、テーマ、作品、それに演技も、素晴らしい感動的なものでした。
 ここには、コンテンポラリーとかテクノロジーといわれるものが失っている、詩情、思いやりといったものがあふれており、それが人々の心をうつのです。こういうものを古いといわずに、大切にすることが重要だなと思いました。
 最後は『アクリ・堀本バレエアカデミー発表会』です。マシモ・アクリさんは、『眠れる森の美女』のカラボスや『白鳥の湖』のロットバルトなどの役では今や第一人者です。悪役にバレエを習う人がいるのかというのは冗談にしても、そんなに大々的に発表会をやるとは思っていませんでした。ところが会場はさいたま市文化センター大ホール、3階まであって2千人以上入ると思いますがそれが超満員。まずそれに驚きました。
 出演者も2百人を優に超えています。小品集とアクリさん本人が活躍する『眠れる森の美女』全幕という、盛り沢山でいささか疲れる内容ですが、ジュニアクラスにはなかなか素質のいいダンサーが見られました。
 聞くところによると、埼玉のバレエスタジオでは今一番生徒が集まっているというのです。発表会もまだ3回目で決して長い歴史や実績がある訳ではないのに、なぜこのように人気があるのか。それはどうも教え方にあるようです。それは極めてオーソドックスに丁寧に、しかも興味がもてるように教えている。多分奥さんの堀本美和さんもそうなのだろうと思います。それでもモダン系のスタジオからもクラシックのレッスンを受けに行くという交流を指導者同士で行ったりしているというのです。
 不況とか少子化などで、スタジオの経営は厳しくなっているといわれます。全体としてはその通 りでしょう。しかし、きちんと丁寧に教えてくれるところには生徒が集まるという事実には、バレエスタジオだけでなく、いろいろな面 で考えさせられるところがあるように思うのです。




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