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幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.37 批評家の仕事・私論」 
  まんべんなく、できるだけたくさん見ること
2001年9月11日
 

 HPの夏休みも終わって、といっても結構なんやかんやと忙しかったのですが、またしんどい仕事が始まります。
 まずは休み前にやり残した、「批評家の仕事・私論」にとりかかります。これは6月18日の「批評の実効性」に続くものです。その時も記しましたが、これはあくまで私個人の独断に基づくもので、異論、反論は多いと思います。しかし、賛否は別 としても、このようなことを考えてみることは必要ではないでしょうか。
 まず大切なのは、自分の舞踊観、批評のポイント、目的を明確にすることですが、古典、新作、改訂再演、作品、ダンサー、さらに実際の記述スペースとの関係など、これをいいだすときりがありません。そこで次の点だけを述べるにとどめます。すなわち、私が舞台に求めるのは感動であり、そのもとになるメッセージであること、そして批評を書くときは、(その舞台からインスパイアされた観念を記すのでなく)、できるだけその舞台に即して具体的に表現することです。ここで舞台というのは、作品やダンサーそれぞれでなく、美術、音楽なども含めて、時間的、空間的にそこに表現されたすべてのものをいいます。
 批評家、批評活動について書きたいことは他にもいろいろありますが、今回は、以下に焦点をあてたいと思います。
 それは、批評家の条件として、できるだけたくさんの舞台を見るということです。書物を読みビデオを見る(舞踊に関する知識を持つ)こと、他の芸術について理解すること、これらももちろん必要ですが、研究者でなく、批評家であるためには、舞台を見ることが絶対条件です。とくにこれから批評家を目指す方は、極端にいえば、寸暇を惜しまず、舞台を選ばず見ること、好き嫌いやレベルの高低に関係なく見て下さい。とくに日本のものを。批判をおそれずにいえば、いかに外国のものをたくさん見て、その知識が豊富でも、(研究者やジャーナリスト、ファンならそれでもいいかもしれませんが)、日本における舞踊界の現状を具体的に知らなければ、日本の批評家としては十分とはいえません。
 私についていえば、このところ年間300~320回ほどは劇場の客席に座っています。こういういいかたをしたのは、コンクールの審査員としてのものもあるからです。日本のものを優先させており、その90パーセント以上がそうなっています。
 正直なところ、その大部分がご招待をいただいたものです。たしかにこれを全部買ったら相当な額になりますが、これは40年を超える批評活動の結果 でして、私も最初のころはほとんどチケットを買っていました(時効ですから書きますが、外来公演では裏から忍び込んだこともありました)。これは投資と考えるべきでしょう。私は以前は普通 の会社に勤めていたのですが、舞踊のための時間が足りなくなってきましたので、50歳の時に大学に移ったという経緯があります。
 もしあなたが将来的にも外国や一部のものに特化した研究、評論を目指すのなら、それはそれでいいと思います。しかし、文化庁や芸術文化振興会などのおおやけの仕事(たとえば芸術祭、在外研修、振興基金など)や、各種の顕彰の選考などもしたいというのであれば、日本のものをまんべんなく、できるだけたくさん見ることが必要です。つまらないもの、くだらないものを見るのも批評家の仕事と思って下さい。それも情報ですし、そこから何をうるかが重要なのです。
 率直にいいますが、現在日本の舞踊界全般について、具体的な情報をたくさんもっている人が不足しています。私だって全部知っているわけではありません。ただこのままだと、あと数年で審査委員や選考委員が、首都圏の大手バレエやコンテンポラリー、ブトー以外は知らないという人ばかりになってしまいそうで心配です(私が心配することではないかもしれませんが)。もちろん、これは現在あるものをすべて認めろということではありません。批判、提言はむしろ必要です。
 私は舞踊が大好きで、とくに日本の舞踊界にもっともっと発展してもらいたいと思っています。そのために苦言も呈しますし、大変微力ですができるだけの協力はしているつもりです(これはすでに前の時に具体的に書きました)。
 若い方に望みたいのは、自分の好みを捨てろとはいいませんが、それを超えてわが国の舞踊界のためにぜひ力を貸して欲しいということです。
 こういう反論があるかもしれません。このグローバルな時代に日本日本というな。舞踊ファンは、それが日本人であろうが外国人であろうが、いい舞台、魅力的な作品やダンサーが見られればいいのだ、と。この考えをまったく否定はしません。ただ正直のところこう思うのです。遠い将来は別 にして、ここしばらくは私たちの素晴らしいバレエ団、ダンスグループが欲しい。それが日本的特質をもったものであればなおよい。そして多くの日本人に愛され、支持されるものであること。そして海外でも評価されること。もちろんこれは舞踊の分野に限りませんが、そうすればわれわれの社会はもっと充実した活気のあるものになるのではないでしょうか。
 批評家のありかたについて、まだまだいいたいことはたくさんあります。これからもときどき「批評家の仕事、私論」の続編、続々編を書いてみたいと思っています。




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