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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.42 「公共文化施設に望む
  ー使用料収入による経営から芸術創造活動へー」     
 
2001年11月20日
 

 小泉内閣が発足してから半年を過ぎました。なんだ政治の話かと見るのをやめないで下さい。舞踊人も不用心ではいけません。これは「家の鍵を忘れずに」ではなくて、これから日本はどうなるのか、それをきちんと見極めて欲しいということです。
 ところで小泉さんの業績はどうだったのでしょうか。マスメディアでは、次の二つの言い方がされています。もう半年だから、と、まだ半年だから、です。「もう」はそろそろ成果 が上がってもいいではないか、ですし、「まだ」はこれから成果が出てくるでしょう、ということ。小泉さんに対する姿勢の違いはあるにしても、つまりは現在成果 は上がっていないと言うことです。この理由のひとつに、小泉さんはテロ問題に入れ込み過ぎているからというのがありますが、もともと鷹派的体質をもっているのです。
 オペラが好きだともいわれていますが、その彼がテロリストを徹底的にやっつけろ、そのためには誤爆で民間人、市民が多少死んでもやむをえない、という態度をとっているのは信じられません。バレエやダンスが好きな人にはまさかこんな人はいないでしょうね。
 ただ今回のテーマはこれではありません。小泉内閣のメイン課題である経済改革です。このページを読んでいただいている方はもうご存じと思いますが、私の専門は経済、経営ですから、現在の政策には疑問がいろいろありますが、ここではとくに大きな問題となっている民営化、とくに特殊法人の整理について考えてみたいと思います。
 ここで中心的に取り上げられているのは、公共投資との関連で日本道路公団など道路四公団の民営化です。これは現在進行中の高速道路整備計画のうち、未開通 区間は一旦全面的に凍結して考えるということで、大きな波紋を起こしているわけです。そしてこれからどうするかというと、基本的に不採算路線は廃止し、国費は一切投入しないというのです。民営化、不採算切り捨ての論旨は、そうでないと税金の無駄 使いになるから、つまり利益を生まない、投資が回収できない税金の投入はしないということです。
 さてこれからが本論の本論です。確かに、現在は大変な財政赤字で、できるだけ支出を切り詰めなければならないのは分かります。ただ、もし国費の支出がすべて採算性基準で判断されるとしたら、芸術関係への支出はどうなるかということです。道路と芸術は違うというのは簡単です。ただ、あまり人や自動車が通 らない道路と、あまり観客がはいらない公演とどちらが重要か、どちらに税金の投入(助成)をやめたほうがいいかといわれると、少し恐ろしいものがあります。つまり、道路は他の場所にたくさん車や人が通 るところがあるからいいというわけにはいきませんが、芸術ではほかに多くの人に好まれる団体や作品があればいいではないかということになりかねないのです。事実、お役人のなかに、芸術は本人が好きでやっているのだから、税金で援助する必要があるのかという人がいたということを聞きました。
 もちろん、ここまでは少し強引に芸術の危機感を強調したきらいはあります。投資(道路)と助成(芸術)とは性質が違いますから同一には論じられませんし、現実に芸術に対する公的助成に関しては、採算性よりは芸術性が重視されているようです。
 ただ、逆に私は道路建設についても、それが税金によるものだから採算が重要だとは考えません。税金の使途というのは、むしろ採算とは別 の基準、つまりそれが必要かどうかによって判断されるべきです。儲かるものは放っておいても民間でやるでしょう。儲からないけど社会に必要なもの、これが税金で行うものではないでしょうか。したがって、私は芸術活動は必要ではあるが本質的に採算の合わないものですから、民間でなく国や地方公共団体がやるべきものと思っているのです。ただしわが国では、実際には国や県、市に代わって民間が犠牲を払って(費用を持ち出して)芸術活動を行っているのです。ですから、現状では民間に対する公的な助成は当然のことです。
 しかし、国立劇場、県立、市立の文化施設などでは話は少し違います。これからはもっと自分で芸術活動を行うようにしなければなりません。というのは、入れ物としての施設と活動は違うからです。これは特殊法人民営化にかかわります。国立劇場をもつ芸術文化振興会もその一つとして俎上に乗っているということを聞きます。その関連法人である新国立劇場も無縁ではないかも知れません。私見ですが、これらは現実にはどちらかというと建物(入れ物)です。だって、主催公演であっても、演出も出演も自前でなくすべて外部に委託しているわけでしょう。つまりはやはり建物だけといわれても仕方がないのです。単なる貸しホールだったら採算で判断されるのは当然で、公立の文化施設が芸術という視点で評価されるには、主体的に芸術活動ができる体制を作ることが絶対条件になるのです。そうでなければ採算が合わなければ(高速道路と同じように)必要ないといわれても仕方がないのではないでしょうか。
 振興会も新国立も、その他の公立文化施設も、ぜひそんなもの必要ないといわれないように、5年、10年かけていいですから、自前の芸術活動ができる体制を作るようにして欲しいのです。完全にそうなったら民間助成は必要なくなり、その分の経費も施設で使えます。それができなければ民営化や住宅金融公庫と同じ運命(首相は廃止と言明)をたどってもやむをえないかも知れません。そしてもし公共施設が民間に委託、あるいは譲渡されたり、あるいは閉鎖されるとなれば、それぞれの地区で危機感をもって知恵を絞るのではないでしょうか。
 ひとつ付記しますと、たとえば芸術のように必要性の強いものであっても、採算は別 としても効率は重要です。高い芸術活動とともに、仕事を合理化し間接コストを削減する一方で利用者へのサービスに徹する、いわゆるお役所仕事からの脱却は、どんなところでも絶対の条件です。
 いささか極論を書きました。現実には国の芸術文化関係の支出は、この厳しい状況でも、文化庁などの努力により、概算要求の時点では前年よりも増額になっているようです。ただ、それに甘えず、公立でも民間でも、芸術性を高めるとともに、効率性にも十分心を配り、助成を受けるにふさわしいものになって欲しいと思います。




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