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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2005.02/09
 

「いま、京都が元気 
  ーアルティの登録アーティストによるブヨウ公演に期待するー」

 


  いま、京都の舞踊が元気です。舞踊といっても日本舞踊ではなく、いわゆる洋舞、西洋舞踊です。こういうことばは[古いなぁ]という人が多いのですが、私はあえて舞踊という言葉を使います。舞い、踊る。ダンスということばより味があるし、深みもあるではありませんか。バレエ(クラシカルダンス)、モダンダンス、コンテンポラリーダンス、バイレフラメンコ、ストリートダンス、みな舞踊です。舞踊も舞踊ですよ。もちろん、それぞれを限定的に指すときはその用語を使いますが。
 話がそれました。京都の洋舞は、率直にいって他の大都市圏に比して、やや低調で話題性にも乏しかったのです。ところが、このところ、舞踊のいろいろなジャンルで、注目すべき動きが生まれています。実はそれまでも、公演活動を行っているバレエ団はいくつもあって私も年に何回かは拝見する機会はありました。ただ、バレエ団としての活動範囲、フェスティバル、コンクールなど、地区全体の質量の点では、どうしても大阪、神戸の後塵を拝していたように思います。これはオペラハウスのみならず、グランドバレエが上演できる劇場がないことも原因しているかもしれません。しかし、このところ、そのハンディを乗り越えて、現在の条件のもとで、先駆的な動き、あるいは充実した成果を上げるところがいくつも現れてきたのです。
 その1つのポイントが2001年にNPO法人化したジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)が京都を本拠として生まれたことです。さらに、このころ京都造型芸術大学に映像・舞台芸術学科、次いで舞台芸術創造センターが設置され、新しい舞踊関係の研究者、アーティストが招かれ、さらに市の中心部にワークショップやセミナーの会場に適した京都芸術センターが発足、日本国内だけでなく世界から多くの舞踊関係者が集まるようになったのです。これらは、主としてコンテンポラリーダンス分野での活動で、たとえばこの2月にも、京都芸術センターを会場として「第二回アジアダンス会議」が5日間にわたって開催され、同時に同所でJCDNダンスフォーラム2005が開かれています。
 京都出身、あるいは京都で成長して各地で活躍しているコンテンポラリーダンスのアーティストは、砂連尾理+寺田みさこ、北村成美など少なくなく、京都からコンテンポラリーダンスの新しい波が生まれていることは明らかです。
 これは、その前提にアルティ(京都府立府民ホール)が定期的に実施している「京の舞踊作家シリーズ」や隔年の公募形式による「アルティ・ブヨウ・フェスティバル」があったことは間違いありません。
 一方バレエ分野では、昨年はわが国で唯一の専修学校の許可をうけている京都舞踊専門学校をもつ有馬龍子バレエ団が創立55周年を迎え記念公演を開催、宮下バレエ団は深川秀夫さんによる『妖精の接吻』(ストラヴィンスキー)や、石原完二さんのモダンな創作を初演、さらに寺田バレエ・アート・スクールは寺田宣弘さんがキエフバレエで活躍、ウクライナとの綿密な提携・交流をおこなうなど、それぞれユニークな活動を行っています。さらに京都出身で当地に石井アカデミー・ド・バレエをもつ石井潤さんは新国立劇場の創立以来のバレエマスターであり、今年(2005年)3月には新国立劇場バレエ団に『カルメン』を振付けています。さらに桧垣バレエ団は小西祐紀子さんが振付け、主演した『MITSUKO』で、平成16年度の文化庁芸術祭関西の大賞を受賞しています。小西さんは、桧垣バレエ団のすべての作品に主演しながら、この作品以外にも京都らしい日本的な感覚の創作やピカソを題材にしたもの、新解釈の『白鳥の湖』などを発表している、なかなかの才人です。
 これらに加えて、ここにまた注目される動きが生まれました。それは先にあげたアルティのA.A.P.(アルティ・アーティスト・プロジェクト)です。これは端的にいえば、舞踊に限らず、スタッフを含む舞台芸術のアーティストを主としてオーディションによって選択、登録して創造集団を結成、そのメンバーによってホールの自主公演を行っていこうという企画です。そしてまず舞踊の部門からということでアルティブヨウ公演を計画、2月5、6日に3ステージの第1回の公演をおこなったのです。実はこのプロジェクトは昨年9月の「京の作家シリーズ」から実質的にスタートしていました。このときは京都在住で谷桃子バレエ団や新国立劇場バレエ団などで広く活躍している望月則彦さんの『トロイアの女たち』がオーディションで選ばれたメンバーによって上演されたのですが、望月さんが芸術監督となり、このメンバーが核となってさらに充実され、今回に至ったのです。
 第1回のブヨウ公演は、左近幸子さん、河合美智子さん、小川珠絵さん、3人の振付け作品によっておこなわれました。50人を超える登録メンバーから男性3人を含む34名が出演、左近さんはバレエ、河合さんはモダン、小川さんはジャズを背景にした作品づくりでしたが、ダンサーはそれぞれ自分の専門以外のスタイルにも挑戦、しっかりと結果をだしていました。全員に出演料が支払われているのも、日本では貴重なことです。
 欧米では当たり前ですが、日本ではほとんど見られない劇場つきのアーティスト(ダンサー)を持つところは、現在新国立劇場、新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)など、極めて僅か。個人の舞踊教室の上に成り立っているわが国の舞踊界では、劇場がイニシアティブをとった創造活動というのはなかなかなじまないのですが、このページでも再三書いているように劇場、芸術家、学校が一体化するのが望ましいことは間違いなく、このアルティのプロジェクトも、その第一歩といえます。
 公的予算があらゆる分野で緊縮化している現在、府立のホールであえてこのようなことをスタートしたこの勇気は大変貴重で、高く評価し、大きく取り上げたいと思います。とくに、新国立がバレエ団、りゅーとぴあが金森積さんを芸術監督にしたコンテンポラリーダンスのカンパニーなのに対して、ここはバレエ出身の望月さんの監督のもと、いろいろなタイプの舞踊を取り上げていくようで、この点でも注目されます。登録ダンサーのキャリアが長い(平均年齢は30歳を超える)のも、スタートとしてはプラス要因でしょう。
 期待も大きいのですが、問題もたくさんあります。まず活動資金の面では外部の助成、観客動員(今回は3回ソールド・アウト)、さらに他に売れるようにすること。それには作品やダンサーの質の一段の向上が望まれますし、知名度も高めたいところです。
 そのためには、多種の舞踊実技だけでなく、振付け、音楽、舞台技術などの芸術分野に加え、歴史、社会、国際などの知識も必要です。そのためにも、十分なリハーサル室や研修室も欲しいところですし、さらにほとんど全員が、どこかのスタジオに所属か、あるいは自分で経営しているのも、今後メンバーをさらに一体化し、活動を充実させるためにはなかなか悩ましいところです。
 もちろん、一気に望ましい形にもっていくことは困難です。基本を[継続こそ力]において、目標を定め、できるところから着実に手をつけていって欲しいものです。