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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2005.04/05
 

「今、名古屋から目が離せない
          ーチャレンジングな舞踊公演が次ぎ次ぎとー」

 


 1か月と少し前に、このページで京都が元気だということを書きました。今回は名古屋について、「今、名古屋から目が離せない」です。もちろん、名古屋経済の元気さは前から注目されていますし、名古屋嬢も評判になっています。新空港の開港、愛・地球博も始まりました。その上、プロ野球では昨年中日ドラゴンズが、そして、今年の選抜高校野球で愛工大名電(イチローの母校です)が優勝。今更注目もないだろうといわれそうです。たしかにそうなのですが、これは舞踊に関してのことです。
 これまでも名古屋地区は、バレエは盛んでレベルが高いということはよく知られた事実でした。しかし、それに加えてダンス系にも新しい動きが、それも名古屋市内だけでなく、愛知県の各地で生まれてきたのです。
 この口火をきったのは咋04年2月、愛知芸術文化センター他の主催、愛知県文化情報センターの企画・制作で、愛知県芸術劇場で行われた愛知ダンス・フェスティバル「ダンス・クロニクル」でした。ーちょっとここで水をさすことになってしまうかもしれないのですが、触れておきたいことがあります。これは、上記の3組織の関係です。それぞれの役割が分かりません。とくに芸術劇場はたんに場所を貸しているだけのように見えます。芸術拠点認定にふさわしいといえるかどうか疑問です。
 それは別として、この企画内容は充実したものでした。1つの柱、舞踊の歴史はバレエを主体に、そしてダンス・オペラとしてストラヴィンスキーの「兵士の物語」を『悪魔の物語』として上演。愛知のダンサー、愛知出身のアーティストを主体に作品、舞台を作ったのも高く評価でき、結果として愛知の舞踊のレベルの高さを示し、またそれをさらに高めるのに役だったのです。そして、時を同じくして知立市文化会館(パティオ池鯉鮒)でもダンスオペラ『悪魔~』とともにシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』を上演しています。
『悪魔~』はユーリ・ンさんでしたが、『月~』は名古屋出身の平山素子さんを、上村なおかさんとともに振付・主演に起用しています。
 このどちらも、他ではまずできない、見られない企画でしたが、さらに同年9月に、同じところ(芸術劇場)で「ダンス・ファンタジア」が今度は物語と音楽をキーワードにした企画に、創作作品を加えて実施されました。引き続き大阪市(勤労文化会館もちのきホール)で、このプログラムの縮小版と『月に~』が上演されています。さらに、今年2月愛知県芸術劇場でダンス・オペラ002として、バルトークの『青ひげ公の城』など、アレッシォオ・シルヴェストリンさんの作品を2つ上演、ここでも歌手は海外からですが、ダンサーは白河直子さんと能の津村禮次郎さんの他は地元主体に選抜されています。
 ここまでは、大きくは一つの企画・計画による事業といえますが、それとは別の動きもあるのです。まず、2月に知立市文化会館主催で『神舞を踊る』という公演が行われました。これは、能の神舞に触発されて、ダンスと地元の伝統的な山車の囃子をコラボレーションしようとする試みです。ダンス(振付も)は愛知出身の平山素子さんと現在ストックホルムで活動している工藤聡さん(因みに2人は高校の同級生)、囃子は知立祭囃子研究会。さらに平山さんの新作『ジュリエット』、工藤さんのディアギレフ振付賞受賞作品『サイレント・ボディ』の2つのソロが披露され、なかなか興味ある舞台でした。
 さらに、3月末には愛知県知多郡武豊町の武豊町民会館ゆめたろうプラザで、意欲的な作品が発表されました。昨年オープンしたホールで、ややアクセスに難がありますが、なかなか立派な中規模のホールです。主催はPAFA(NPO法人パフォーミング・アーツ・ネットワークあいち)と愛知県芸術文化情報センターですが、制作はPAFAです。
 このPAFAは愛知の芸術文化関係者を中心に組織され、主として舞台芸術の企画制作を行っている非営利法人、これもなかなかユニークな存在です。
 さて、この作品は『恋人形』。牡丹灯篭とコッペリアをベースに、舞踏(笠井叡)、バレエ(ピエール・ダルド)、ダンス(上村なおか、Abe"M"ARIA)、それに文楽人形(桐竹勘十郎)、語り(竹本津駒大夫)の異分野の才能が融合して舞台を作り上げています。振付は笠井さん。笠井さんも上村さんも愛知芸術文化センターの作品にも出演しています。これは4年越しの企画だそうで、前の『神舞』とともに、ここだけに終わらせるのはもったいない内容です。
 これらは、この約1年間の実績、これだけでも大変充実した内容ですが、まだこれからも続きます。
 愛知の芸術文化センター関係では、8月にあいちダンス・フェスティバルの第3回が振付者に大島早紀子さんを迎えて地元のバレエダンサーたちが、そして9月にダンス・オペラ第3回『UZUME』が笠井さんの振付、橋本一子さんの音楽、ファルフ・ルジマトフさん、白河直子さんなどの異色の顔合わせで予定されています。
 9月にはさらに碧南市の主催で、先に述べた工藤聡さんのカンパニー・クドウが、『LIZARD』が芸術文化ホールで上演されます。また、七つ寺共同スタジオと虫丸事務所の主催で国際芸術フェスティバル参加事業として、5月11日から15日まで藤條虫丸さん始め名古屋以西の舞踏家や音楽家を集めて同スタジオで行われます。
 先に述べたとおり、愛知のバレエは全国でも1、2を争うほど盛んなのですが、新しいダンス(ブトー、コンテンポラリー)は率直にいって全て低調でした。ただ、ここにきてこのような動きが現れてきたのは、これからの方向としては望みがでてきたといえます。しかし、まだ振付者は外部からだし、出演ダンサーもバレエ系がほとんどで、この地区に新しいダンスが根づくかどうかは、これからの行動によります。それにはまず地元を動かし、振付者を育てることです。それも公的な分野の役割ではないでしょうか。単発ではなかったし、内容も立派なものではありますが、これらの事業が打ち上げ花火に終わらないことを願っています。
 さらに付記しますと、舞踊の他の分野も活発です。万博関連ではありますが、第5回世界バレエ&モダンダンスコンクールが7月に開催され、「高円宮憲仁親王殿下メモリアル特別ガラ公演」、そしてスーパーガラ「メダリストたちの競演」が名古屋を起点に全国9か所で行われます。
 現代舞踊系も負けてはいません。現代舞踊協会中部支部設立50周年記念公演が、11月に3日間にわたって全国から会員が集結して賑やかに行われます。
 いつも痛感し、あちこちでいってることですが、わが国では舞踊だけではありませんが、首都圏一極集中がひどすぎます。それぞれの地域に素晴らしいアーティストがおり、カンパニーがあって、各地でバレエにしろダンスにしろ常に素晴らしい舞踊が楽しめるようになるといいと思います。くどいようですが、それは第一に公立劇場の仕事です。これは首都圏も同様ですが、基本はプロのダンサー、カンパニーとその本拠地(劇場)を作ることです。
 本年1月のローザンヌのバレエコンクールでは韓国勢が圧勝でした。これが一時的な現象であることを祈っています(もちろん政治とは別の平和な美の競争です)。