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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2005.04/20
 

「なんといっても舞踊のメッカはやっぱり首都圏
          ー興味ある顔ぶれで埋まった3月中旬ー」

 


●カオス、キノコ、そしてコンドルズ
 京都、愛知が頑張っているという話をしましたので、今回は東京を考えてみましょう。舞踊のメッカは依然として東京を中心とした首都圏であることは間違いありません。とくに今年の3月中旬には、いろいろと興味ある公演が集中しました。
 まず10日から12日には彩の国さいたま芸術劇場(小ホール)で[珍しいキノコ舞踊団]が4回、11日から13日は[H・アール・カオス]が池袋の東京芸術劇場中ホールで3回、そして[コンドルズ]が15日に渋谷公会堂、21日には東京グローブ座で公演を行っています。[カオス]では02年朝日舞台芸術賞受賞作品「神々を創る機械」の再演(05年版)、そして白河直子さんが昨年の芸術選奨新人賞も受けています。[コンドルズ]では近藤良平さんが今年の朝日舞台芸術賞と昨年の舞踊批評家協会賞(いずれも新人部門)、[ キノコ]も少し前(01年)に舞踊批評家協会賞新人賞を受けている、新しい勢力を代表する人気抜群のカンパニーです。
 もちろん、これ以外にもこの分野にいくつかの力をもったカンパニーやアーティストがいますが、とくにこの3つは、まさに興味本位でいえば3つ巴、共通と対照という点で極めて入り組んだ特徴的なスタイルをもっているのです。
 まず共通点、ふざけたところから入りますと、公演場所が渋谷から新大久保、池袋、与野と、最強線、いや埼京線上にあります。新大久保は止まりませんので線上と表現しました。さらに付記すれば、ここにあるグローブ座は埼京線の電車の中から見える唯一の劇場なのです。

●女性だけ、男性だけという特徴、そのなかでの共通性と対照性
 以上のことはどうでもよいのですが、まず共通でもあり、対照的なところもある特徴は、メンバー構成です。すなわち、女性のみか、男性だけ、男女混合チームはなし。いうまでもありませんが、[コンドルズ]は男性だけのカンパニー、あとの2つは女性のみ。これは振付者も含めて徹底しています。実はさかのぼると、女性チームにはほんのまれに男性(ゲスト)が入っていたことがあります。[コンドルズ]はどうだったでしょうか。私の記憶では女性はなかったようです。男性ダンサーが少ないわが国でも、他のカンパニー、たとえば勅使河原三郎さんの場合は基本的に、伊藤キムさんのカンパニーでも混成が普通です。
 男性だけはもちろん、女性だけのカンパニーも、もちろん上演作品も、わが国でさえ、バレエ、モダンを含めてもきわめて稀なケースです。[コンドルズ]は、大学(高校も?)のダンス部の黒一点が集まってスタートしたと聞いたことがありますが、伝説かもしれません。いづれにしろ、それぞれきわめて特徴的です。
 ただし、女性カンパニー、[カオス]と[キノコ]でもその舞台はまったく異なります。
 ダンサーを鎖で上から吊し、超高速で回転したり、空中を浮遊するのを特徴とする[カオス]。さらに今回の作品では、病院のベッドを利用してトランポリンのように空中回転するという方法も使われます。もちろん、基本的にダンスそのものがきわめて激しくダイナミックです。それに対して少女ダンスともいわれる[キノコ]では、日常的な動きをモティーフとしたダンス主体で、自然でほのぼのとした感じです。今回の「家まで歩いてく。」にはありませんでしたが、サポーター?や観客に呼び掛けて、一緒に踊る場面があったりもします(この時は男子禁制ではありません)。そして歌を歌ったり、せりふをいったりします。装置、衣裳などの美術についてもこの2つは対照的。ダンススタイルを含めてこの点では[キノコ]と[コンドルズ]のほうが共通する部分が多いようです。学生服、学生帽、普通の運動靴がユニフォームでせりふもあり、出演者のやりとりによる芝居的な場面の多いコンドルズ、それにたいして、[キノコ]はカジュアルな私服にスニーカーや裸足で、今回はモノローグ的な場面が主体でしたがことばも使われています。舞台装置も上まで伸びたり、舞台を区切る本格的な[カオス]。[キノコ]、[コンドルズ] は手作りっぽい(失礼)小物を使うだけのことがほとんどです。レトロ、オールディズといったポップス音楽がよく使われるのも似ています。

●それぞれに特徴、独自の魅力が
 もちろん、違いもあります。[カオス]は、ダンスの質そのものが他の追従を許さないものです。基本コンセプトでは似たタイプのあとの2つのカンパニーでも、しゃれた、パロディックな映像は[コンドルズ]の売り物の一つですし、ピアノなどの楽器も時々登場します。今回はたくさんの派手派手なリボンもたくさん上から吊されていました。ダンスも近藤さんはこの世界でトップの力を持っていますし、他のメンバーも一時よりは大分上達し、ロックなど激しいものもさまになってきました。ただ、さまざまな体型のメンバー構成からは、ダイナミックに一糸乱れずはむりで、むしろそれがここの特徴でもあります。笑いの質も微笑ましい中にときどきなにげなく痛烈なアイロニーが含まれる[キノコ]、一方[コンドルズ]は、そうとう濃い、強烈な笑いを意識しているようです。ただ、今回の「JUPITER」では、なかなかインテレクチァルな笑いが入っていました(英語で日本を説明するところなど)。場面転換の速さ(不連続性)はここの特徴です。
 このように、それぞれに共通点もありますが、舞台で展開されるものはまったく異なった、個性的、独自の魅力をもったカンパニーです。それらがほとんど同時期に公演をもったのです。多分、それぞれの固有のファンもいるでしょうが、どれも見たい、見てしまったという観客も多かったのではないでしょうか。私も日程調整に苦労しました。

●これ以外でも目白押しの興味る公演、だが
 もちろん、この約10日間、上に述べただけではありません。ほかにもいくつも興味ある公演がありました。東京シティバレエ団のダンサーによる歴史的な作品(石井漠、伊藤道郎)と現代作家作品の上演(11日ティアラ江東)。舞踏でも[大絡駝艦]壺中天公演「可能無限」が18日から21日まで7回。ここでは振鋳、鋳態(演出・振付、出演)が兼澤英子さんで、女性、男性4人づつ。むしろ女性主体の作品が発表されました。
 モダンダンスの分野でも、内田香さんが主宰する女性だけのカンパニー、[ルッシュワルツ]が12,13日男性ゲストを加えてセシオン杉並で「なみだ」を上演。これ以外にも現代舞踊系では、前に書いた百回を迎えた新人公演3日間、文化庁新進芸術家公演が2回、カルメン・ワーナーさんの作品を日西のダンサーが踊った「ジ・エンド~ヒロシマ2005」(青山円形)。バレエ団関係も、スターダンサーズ、NBA、谷桃子バレエ団がこの期間中に公演を行っていますし、これ以外にも私の見たものだけでも日本舞踊2公演、さらに新国立、千住での演劇公演もありました。
 この前後にも、板東扇菊、武元賀寿子、能美健志さん、新国立の石井潤さんの「カルメン」などの意欲的な作品発表にもあり、東京新聞のコンクールもはじまって、凄すぎるほどの舞踊公演ラッシュです。この状況は舞台芸術文化隆盛の国日本、と喜び、誇れるものか。舞踊家たちの生活や、社会的な地位を考えると素直にイエスといえない私は、根性が曲がっているのでしょうか。