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2006.6/13
うらわよみ舞踊用語辞典(承前)―独断と偏見による用語解説―
今回の続きの後半は6月28日に掲載いたします。
●袖(そで)
舞台に続いている空間。両サイドにあり、ここでは踊られたり、演じられることはなく、壁、柱などの枠やカーテン(そで幕)などで区切られ、客席からは見えないようになっている。とくにプロセニウム(額縁舞台)では、この境界が明確になっている。客席から向かって右側を上手(カミテ)、左側を下手(シモテ)という。
袖はなんのためにあるのでしょうか。とくに舞踊について考えてみましょう。
まず、袖にはいろいろなものが置いてあります。大道具、小道具などの装置類、着替えの衣裳など。さらに(下手が多いですが)音響や放送などの操作機器、さらに照明器具も両袖にあります(出入りでぶつかったり、前を横切って影を写したりしないように)。
もちろん、出を待つ出演者もいます。演技を終えて入ってきて、ぜいぜいやっているダンサーもいるでしょう。スタッフも、主役や着替えを急ぐ出演者のアシスタントもいますね。またカンパニーによってはアンダースタディ(いざという時の代役)や、研修生などが見学をしていることがあります。
発表会は大変、ベビークラスのお母さんたち、なかにはお父さんが心配そうに舞台を見つめています。後ろにいては背伸びしないと見えません。だめだめ、そんなに前にでたら客席から丸見えですよ。
このようにいろいろな役を果たす袖、いったいどのくらいの広さがあったらいいのでしょうか。じつは、バレエやオペラには、もっと大事な機能があるのです。それは舞台転換です。たとえば、幕と幕、景と景の速やかな転換には、次の舞台をすでに袖に作っておいて、それをそのまま横に移動させるのです。その場合それまでの舞台は下に下ろすか反対側の袖に滑らす。あるいは奥に移動します。こうなるとつまり、舞台と同じ以上の袖が必要になりますし、当然にその転換を可能にするシステムがなければなりません。
これを4面、あるいは3面舞台といい、バレエやオペラ用の劇場では絶対に必要なのです。日本でこれがあるのは、新国立劇場、愛知県芸術劇場、びわこホールなど、きわめて僅かです。欧米のオペラハウスでは当然のことなのですが。
ただ、日本では、せっかくの4面舞台もほとんど活用されていません。なぜなら、これは、そこに専属のバレエ団や歌劇団がいて、長期公演を行い、しかもしばしば演目を変える(レパートリーシステム)の場合にとくに有効だからです。残念ながら日本にはこのようなケースはまだないのです。逆にいうと、将来そうしようとしても、劇場の機構が妨げになってしまうのです。
それどころか、わが国のホールには、最初にあげたいろいろな条件さえ十分にできないところがたくさんあります。最近建てられたものでも、袖がまったくないところ、ホリゾント(舞台正面奥のカーテンで覆われた部分)さえないところがあります。
こういうところではダンサーたちは袖に入るのに大変苦労します。とくにグランジュッテで飛び込んだり、女性をリフトしたまま引っ込んだりするのは大袈裟でなく命懸け、舞台監督さんが、必死でスペースを確保します。「ほら、××さんが入ってくるから、どいてどいて!」。
もっと広くならないの。―ない袖はふれません―
このような袖ですが、これは舞台とは別の世界でしょうか。たしかに、客席からは見えません。でも袖の出入りの仕方は重要です。とくに古典バレエのように物語のあるものでは、舞台と袖は作品(演技)の上ではつながっているのです。たとえば、だれかを追っていく、別れて去る、走り出てくる、だれかを遠くに認めて呼んだり、迎える準備をしたりする。こういった場合、袖は舞台とつながっているのです。当然に、それが観客に分かるように演技しなければなりません。出るときは入った側からにするのが当然。でも、そうでないケースもあります(地球を一周して反対側から)。
では、踊り終わって引っ込む場合はどうでしょうか、これも別の意味で重要なのです。もちろん、作品の中での退場と、踊りが終わっての挨拶(レヴァランス)=たとえばバレエコンサート=やカーテンコールのときでは違いますし、とくに古典バレエでの作品中の退場は、その役にふさわしい引っ込み方が望まれます。
主役とソリストでも異なりますし、オデット、ジゼルとオディール、キトリといった役柄によっても袖への引っ込み方は違うはずです。さらにそこに魅力的な個性が感じられるようになれば一層素晴らしいと思います。これは踊りに出てくるときも同じですが、こちらは比較的うまくいっています。踊り終わったときは、ほっとするか、はずかしさで、ついわれを忘れる…のでなく、役を忘れてしまうのです。
超チビちゃんクラスの、まことに個性的、かつ見る人を感動させ、はらはらさせる最後のご挨拶、袖入りも楽しいですね。
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