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(2014.7.15 update)

鈴木稔 Garden vol.27

親しみやすい物語バレエからエッジのきいたコンテンポラリーまで、鈴木稔氏の作品づくりは驚くほど幅広い。スター・ダンサーズバレエ団のバレエ・マスターとして若手の育成にも力を注ぐ鈴木氏のスタートはまずダンサーだった。その例にもれず素顔は少年のように若く、感性にあふれる語り口はみずみずしく快活だ。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

 

答えを見つけたフランクフルト

鈴木先生の経歴はユニークですね。バレエ環境にお育ちなのに、一直線ではないという点で。

僕には踊りの神様が三人いるんですけど、一人はジョージ・バランシン、もう一人がウィリアム・フォーサイス、そして植木等さん。

植木等さんといえば「スーダラ節」の。

そうなんです。子供の頃クレージーキャッツの映画が大好きで、その音楽をかけて自宅の稽古場で踊って遊んでいたんです(笑)。むちゃくちゃなノリの、エンターテイメントのなかでのダンスですよね。ノリで体を動かす、踊りの原点を教えてくれた人。バランシンはいわずもがなで、バレエをひとつの極限まで引き上げた人。そしてフォーサイスさんはその極限をさらに膨らませ、さらにははみ出した人。

植木さんというのもやっぱりユニーク。なにごとも、これまでを打ち破って新しいものをつくるのはすごく大変なことで。発想やインスピレーションはどこから得るのでしょうか。

アイディアは常に身の回りにあるいろいろなことに目を配っていれば、気づくチャンスに恵まれると思います。ですからいろいろなものに興味を持つようにしています。でも発想やインスピレーションは突然どこからかやってくるものなので僕にも分かりません。クラッシックバレエには型(かた)や決まり事がありますよね。これはいわば多くの人が共通意見として「美しい」「心地よい」というものなんだと思います。ですからこれらに逆らっても無駄なんだという思いがずっとありました。バレエは奇麗か楽しければ良いと。しかし一方でそれにはストレスも感じていました。バレエ以外の踊りや日常所作、いわゆるバレエらしからぬ動きとのコンビネーション。これら自分の発想やアイディアを盛り込むと、しばしばこの「逆らう行為」に なってしまっているのではないか?そんな疑問を持つようになってしまいました。97年から98年くらいにかけてとても悩んでしまい、振付けを含めバレエに携わること自体に疲れて、もう辞めてしまおうと思ったことがありました。そんな時期に縁があってフォーサイスさんのところに行かせていただける事になりました。99年から2000年にかけてフランクフルトバレエに関わって、フォーサイスさんの仕事を見ていると「ああ、なんだそんなことにとらわれなくて良いんだ」と。

新たな出会いと発見の年ですね。

はい、そうですね。構成力も構築力もあったうえで、それを全部ひっくり返しちゃって、その結果の一番いいところだけをもってくる技法はありなんだ、と。

大好評の作品に「デジメタ・ゴーゴー」というのがありますが、あれはどのようにつくられていったんですか。

Degi Meta go-goはフランクフルトに行く前の悩んでいた時期に「KATSUO NISILAGA」という名前で初演しました。スタートはサザエさん一家の話で曲もモーツアルトでした。装置は舞台奥にエスカレーターを置こうとか、今のスタイルとは全然違うものでした。

大切なのは、バレエに対する誠実さ、いかにまじめに振付家を裏切るか

今までのお話は鈴木先生の精神史ともいうべきで、ダンサー、振付家を目指す人たちにとっても励みになることと思います。それにしても、踊りというのは先生から弟子へと、ダンサーからダンサーへと、受け継がれてつながっていくんですね。

師匠といえば、僕の母親がちょっとヘンな女で、(笑)。生粋の踊り手なんですね、彼女は技術とかなんとかじゃなく、踊りの雰囲気をつくりだしたり、子どもたちと遊んでいるのが得意なんです。それも受け継いでいるのかもしれません。教育の場であったり、舞台からのつながりであったり、人同士が繋がっているのは、一見するとドライな西洋でも同じなんです。

 

今、スター・ダンサーズバレエ団は、先生がたのご指導がさらに行き届いていて充実しているのを感じます。これまでの蓄積のうえにいっそう磨きがかかってダンサーたちがほんとにきれいですね。舞台の上から観客に見せるんだという意識が伝わってきます。ダンサーに求められることはありますか。これからスターダンサーズ・バレエ団を目指す人も増えるでしょう。

バレエに対する誠実さが一番大切だと思います。テクニックを習得することも大事ですが、そのテクニックで何が表現できるのかを考える事が重要です。あとは、いかにまじめに僕を裏切ってくれるかということを期待しています。

 
林 愛子 (インタビュー、文)
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、'80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。