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(2016.10.14 update)

中村祥子 Garden vol.30

さわやかでオープンな性格、前向きな思考で世界的プリマの道を歩んできた中村祥子。
彼女の話は華やかな舞台と同じように私たちを惹きつける。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

 

バレエを続けたおかげで広がった世界

踊り続けてよかったと思われることは何ですか?

一番大きいのは、自分を変えられたことでしょうか。海外ではツアーにも出て得難い経験もしました。バレエをやっていなかったらいろいろな方にお会いすることもできなかったし、一人の人間として精神的にも自分の世界を広げることもできなかったと思います。

さて日本には、Kバレエ カンパニーの舞台を楽しみにしている大勢のファンがいます。カンパニーの公演に出るようになったきっかけは?

青山劇場のローザンヌ・ガラに出たのを、熊川さんが見にいらして声をかけてくださった。Kバレエに初出演してから11年になります。

 

この秋には、熊川版「シンデレラ」と「ラ・バヤデール」の主役を踊られますね。

10月の26日が「シンデレラ」11月に「ラ・バヤデール」とつながっています。

熊川版は劇的展開がわかりやすく、人物造形も深くキャスティングも配慮されている。そのうえ「シンデレラ」はエンターテイメント性もあり、「ラ・バヤデール」も起伏に富んでいる。熊川さんはほんとに舞台をわかっていらっしゃる方ですね。

表現に関しての指導をいただくときも、ここを理解して考えてほしいという指摘にいつも納得します。
ご自身もロイヤル・バレエにいらして、ダンサーとして人としていろんなことを経験して吸収してらっしゃる方なので説得力があります。こちらとしても自分の表現を深めていけるので、言ってくださるほうが有難いですし必要なことです。もちろん自由に踊れる部分もありますが、私自身もさらに成長していきたいので感謝しています。

私たちは物語を展開させるために舞台に立っている

どちらの作品もマラーホフ版で踊っていらっしゃいますね。
今回も、現代トップのアーティストによる改訂版を踊られるのはとても興味深いです。

振付もいろんなバージョンによって、表現も変わってくるのでほんとにおもしろいです。
熊川版のシンデレラは今、振りをもらっているところなのでまだ深いところまではいっていないんですけど、映像で見させていただいただけでも、なんだか自分までがそのまま夢の世界に入っていきそうで、シンデレラというファンタジーが目の前に広がります。

 

ハッピー・エンディングのシンデレラ、「ラ・バヤデール」は悲劇の主人公ニキヤと違うタイプですね。

それぞれ取り組みがいがあります。相手役は「シンデレラ」が遅沢佑介君、名古屋では宮尾俊太郎君、「ラ・バヤデール」では遅沢君です。相手の方が出すものによって、こちらも返すものが違ってくる、すると雰囲気が違ってくる、舞台にはそういうおもしろさがあるから今から楽しみにしています。

カンパニーには早くから溶け込んでいらっしゃいますが、本番までもっていくのにどういうことを心がけていますか?

パートナーとして踊るにあたって、想いをすべて伝えます。やはり何も伝えないことには相手にわかってもらえない、だからリハ―サルでも私はこういうふうにやりたいということを言います。それが彼にとっていいか悪いかは話し合いながら、細かく重ねてつくっていきますね。祥子さんはうるさいって言われますけど(笑)。
そうやってお互いを理解してこそ、信頼感も生まれ、すべてを出せるのだと思います。 私が学んだことは、やっぱり舞台上のことは舞台上で起こせばいい、ただ真正面の平らな演技じゃなくて、全体の空間で踊ってみんなと演じ合う、するとそこで起こっていることが見えてくる。私たちはただきれいなポジションを見せるために舞台に立つのではなく、物語を展開させるために舞台に立っているのだということなんです。そのためにレッスンやリハーサルを重ねているのだと思います。

 

Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY
Autumn 2016「シンデレラ」

・主催
東 京:TBS/Bunkamura
名古屋:CBCテレビ/中日新聞社

・会場
Bunkamuraオーチャードホール/
愛知県芸術劇場大ホール

・日程
2016年10月26日(水)~11月9日(水)


 

Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY
Autumn 2016「ラ・バヤデール」

・主催:TBS/Bunkamura

・会場:東京文化会館大ホール

・日程:2016年11月18日(金)~11月20日(日)

 

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こだわりの品

これは中国のデザイナー、アナ・スイの指輪です。その頃、蝶々が好きで、気に入ったデザインなので日本で買いました。私が怪我して回復したあとに、初めてプロとしてギャランティをいただいた舞台に立ったんです。それは福岡の藤野先生の教室で、ゲストとして声をかけていただきました。
そのギャラで、今まで支えてくれた母と妹、そして自分に同じものをプレゼントしました。指輪を手にし、身に着けると、初心に戻れるというか、だからこそ今の自分がいるんだということを思い返すことができるんです。

 

林 愛子 (インタビュー、文)
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、'80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。