D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

藤井 修治
 
Vol.35 「東京の夏」  
2001年7月11日
 暑いですネー!もう夜中だというのにまだ暑苦しいようです。
 今晩(7月9日)<東京の夏>音楽祭2001という催しのオープニングに行ってきました。この音楽祭はもう17回目になり音楽ファンの夏の楽しみの一つです。この音楽祭の特色は、年によって特色のあるテーマが決められていて、楽しみでもあり勉強にもなります。これまでもディアギレフ・バレエの特集やジプシー音楽の魅力、ドイツロマン主義の歴史等々、多彩 なテーマがありました。ことしは「声(こえ)」がテーマです。
 音楽祭というとクラシックのコンサートばかりかとも思ったりするのですが、7月9日から28日までの間に20回ほどの公演で、純粋なクラシックのコンサートは2回だけ。ヴェルディ没後100年を記念しての「オペラ・アリアの夕べ」があります。これは「ベルカントの饗宴」と題され、19世紀イタリアで発達した世界で最も美しいといわれるベルカント唱法によるコンサートです。もう一回は新人のコンサートです。この2回以外は多種多様な声が聞かれます。音楽の根源としての人間の声の現状を聞きくらべながら可能性をさぐろうということでしょうか。そういうわけでふだんは絶対に聞くことができない声も聞けるかもと、まずはオープニングの夜に出かけたわけです。
 今晩はロシアからの「ポクロフスキー・アンサンブル」が登場しました。女性6人男性4人、計10人のアンサンブルです。オペラ歌手の人工的な美を極めた声と違って、いわゆる地声(じごえ)で歌っています。ロシアはとてつもなく広いので、地方によって風俗も音楽も違います。しかしモスクワで設立されたこのチームは特定の地方にかたよらず各地の歌や踊りを披露しました。
 元気な歌声にふりむくと、客席後方から登場した10人は思い思いのロシアの衣裳を着て舞台に向かいます。まずは南ロシアのドン・コサックの人々の勇壮な歌の数々に感動。つづいてロシアの西方、ブリャンスク地方の深い森の中に残されていた異教的な儀式のもようを再現してくれました。そしてロシア中南部の葬式の歌声。会の後半はロシア南西部の婚礼の進行状況をハイライトで。世界は広い!こんな婚礼の風習もあるのかと感心しました。このごろ疲れ気味なので今晩はサボろうかと思ったのですが、そうしたらもう一生見られない聞かれなかったと思います。
 このグループは1973年に発足し、主宰者のポクロフスキーの没後も活発に活動をつづけているそうです。いわゆるフォークロアを通 じ、異なる民族文化間の交流に役立とうとしているとのこと。さらにストラヴィンスキーからスティーブ・ライヒらの現代作曲家の作品も手がけるなど幅広い演目もあるようです。10人が歌って踊って芝居して、こちらは耳からも目からもびっくりで、いままで想像もできない世界に連れて行かれました。現代では多くの場合、舞台人は歌う人、踊る人、芝居する人と分業化が進んでいます。宝塚歌劇などは例外でしょうか。バレリーナは他のことはあまり出来ないでしょう。歌手は歌しか歌えませんと自慢げにいいます。芝居好きの人はほとんど芝居の話ばかりします。ところが今夜の10人が視聴覚でアピールしてきます。
 ということでこの音楽祭、他の日にも行きたいのですがなかなか時間がとれそうにもありません。何とか都合をつけようと各公演の予定表を見ると全日とも面 白そうな内容・出演者で行きたい意欲をそそります。ちょっと御紹介しましょう。
 前述のもののほかをあげてみますと、まず韓国の伝統的歌唱のパンソリ。魂の叫びとかいわれます。西アフリカに古くから伝わる世襲制による語り部や楽師の歌と踊り。さらに極北の地サハ(ヤクート)のシャーマンの呪術の声。サハってどこでしょう?フィンランドからの24人の男性が叫ぶように歌うというパワフルな世界。つづいてはシルクロードから、中国の西端に位 置する新疆(しんきょう)のウィグル、キルギス、カザフスタンの名手たちの歌や演奏。さらにトルコのイスラームの祈りの声、コーランの朗誦。そして日本からは、義太夫の網太夫が演じる古典と現代。九州からの盲僧琵琶や妙音十二楽という法会の声。伊藤多喜雄プロデュースによる日本民謡の数々。他に関連企画として、都内でのライブスポットでの若者たちのライブ。さらには録音によるアポリネールらフランスの有名人たちの肉声。等々。現地に行って聞くことは一生かかってもできないでしょう。
 とにかく音楽祭というとクラシックばかりとか、ロックだけと思いこんでいたお堅い先入観はもろくも打ち破られます。音楽の聴きかたは凄く変わっていたのです。クラシック音楽育ちの僕にはこの音楽祭は新しい音楽観を教えてくれます。今回の「声」でも実際に聞いたことがないだけでなく、名前すら聞いたこともない実力者がたくさんいたのです。
 考えてみると同じようなことは舞踊の世界にも多分にあるようです。舞踊の中心にクラシック・バレエがあるということは一般 常識のようですが、実は世界中に実に多彩な舞踊があってそれぞれの存在理由があるのです。今夜のアンサンブルの人々が見せた民族舞踊もすてきでした。目から耳からウロコの夜でした。
 もう僕の人生も先が見えています。一年は365日、一日は24時間しかありません。あれも見たい、これも聞きたい。それでもこのごろはどうしても舞踊が中心になっているようです。ぜいたくだとも思いますが、何とか他のジャンルのものも見聞きし、最終的にやはり舞踊もいいものだと再確認してみたいものだと思うきょうこのごろです。



掲載されている評論へのご意見やご感想を下記連絡先までお寄せ下さい。
お寄せ頂いたご意見・ご感想は両先生にお渡しして今後の掲載に反映させて頂きます。
また、このページに関する意見等もお待ちしております。
 
株式会社ビデオ
〒142-0054東京都品川区西中延1-7-19
Fax 03-5788-2311