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幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.31 「信頼感と緊張感をもった真剣な合評会
  佐々智恵子バレエ団『Ballet Session 2001』」
2001年 5月23日
 

 名古屋地区のバレエ活動は非常に盛んで、しかもレベルが高いということは、私も常に感じておりますし、またご存じの方も多いと思います。ただ、バレエ団やダンサーの充実に比して、創作面 がやや手薄であるというのが、これはわが国全体の問題でもありますが、やや残念なことです。もちろん、この地区でも個々のバレエ団単位 で、また「はばたくバレリーナたち」や「センター・バレエ」のような、団体を横断したかたちで、いろいろと創作上演の試みは行われています。ただ、その多くが、東京などこの地区外で活躍している振付者を招いてのもので、もちろんそれはそれで大きな意義がありますが、自分たちのなかから創作者を育てようという動きももっと欲しいものです。
 このような活動で大事なのは、その上演の結果をしっかりととらえて、それを次の創作活動に生かしていくことです。せっかく作品を発表しても、「良かった良かった、お疲れ様」になってしまったのでは、あまり意味はないでしょう。たしかに試演会でなく公演となると、あまり思い切った試みはできないかもしれません。しかし、創作公演にも、実績ある人や作品によって創作作品の魅力(面 白いのは古典だけではないぞと)を見せるものだけでなく、いろいろと若い人、新しい人が勉強をかねて挑戦する会があってもいいと思います。ただ、とくに後者の場合、上演しっぱなしでなく、その機会を将来に生かすようにすれば、お客さんも応援してくれるのです。
 このような中で名古屋で創作に取り組んでいるユニークな活動があります。佐々智恵子バレエ団の『Ballet Session 21 ~創作への試み』です。これは1989年から始まり、今回は第13回になるのですが、残念ながら東京では「知る人ぞ知る」という状況です。もっとこのような地道な、しかし重要な活動が広く紹介され、また支持されるようにならなければ、と思います。
 さて、今回の会(5月19、20日 名古屋芸術創造センター)ですが、佐々良子さんのオープニング作品に続き、団員の作品4つ、そして団友(川口節子)、外部(三代真史)の創作が発表されました。団員作品は『眠らない姫たち』(小川典子)、『四季』(下平玲子)、『輝きを求めて』(黒沢優子)、そして『Voice』(神戸珠利)。みなここの幹部です。光源氏をめぐる女たちのなかで藤壷に焦点を当てた小川作品、ヴィヴァルディの音楽によって女性の来し方の心理を描いた下平作品、そして愛する男女の心の動きをデュオで表現した黒沢作品、そして壮大な宇宙の摂理を群舞と幾つかのシンボルで語ろうとした神戸作品と、なかなかヴァラエティに富んだラインアップでした。
 ただここで述べたいのは、個々の作品の評価でなく、終演後の合評会のことです。
 上に記したように、一般には打ち上げなどで部分的に批評やアドバイスすることはあっても、きちんと作者と対面 して意見交換する機会を設定するというのは珍しいのではないでしょうか。
 今回は、出席者は作者4人と佐々智恵子、良子の指導者(ただし創作指導にはあまり深入りせずに、本人たちの意向を尊重しているとのこと)、そして名古屋の音楽、舞踊、演劇などの評論家、ジャーナリストたちです。(私も途中まで同席しました)。
 驚いたのは、その発言の厳しさです。もちろん助言もありますが、「原書をどれだけ読んだか」、「なぜこの音楽を選んだのか、こんな音楽の使い方はない」、「衣装が合わない」、「自分を見せたいだけじゃないか」、実際はもっと直裁的ないいかたです。作品の説明を聞いても、「そんなの全然伝わってこない」などなど。私も作品の問題点や創作の要点などを具体的に指摘させてもらいましたが、快い緊張を感じました。ただ、泣き出してしまうのではないかとはらはらするぐらいの鋭い言葉が飛び交っても、トゲトゲしいというより、基本的には真剣な雰囲気で、そのなかに冗談も飛び出し、おたがいに信頼感がそこにあることが感じられて、大変充実した、ある意味では楽しい時間でした。
 あとの二人は団員でないので参加しませんでしたが、若いダンサーたちが踊りと表現を見せた三代作品はその片鱗がうかがわれた程度でしたが、川口節子の『マダム・バタフライ』は、ややコンセプトに対する踊りの整合性、一貫性の点で徹底を欠いた面 はありましたが、その感覚のユニークさは極めて貴重なもの、昨年別の場で発表した『イエルマ』もそうですが、もっともっといろいろな作品を見てみたい振付者です。
 団員の4人もそれぞれいいものをもっており、このような活動をさらに続けることによってさらに発展が期待されます。
 創作作品はなかなか手直し再演の機会がないというのが問題ではありますが、次の創作にも、あるいはダンサーとしても、このような作品を題材とした合評会は、具体的で大変有用だと思います。指導者、作者、演者、そして観賞者、批評家の信頼感と緊張感のある関係を築くことは、これからますます必要になると思います。このような意味で、この佐々智恵子バレエ団の『Ballet Session』は、これからも注目していきたいと思います。




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