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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.46

「『現代舞踊』について考えてみよう

  ーわが国の舞踊の基礎を築いた現代舞踊の先人たちに続いてー」
 
2002年1月25日
 
  新世紀を機として創設された朝日舞台芸術賞が発表されました。舞踊関係は舞台芸術賞にH・アール・カオス、勅使川原三郎、新人賞ともいうべき寺山修司賞に伊藤キム。2001年が彼等にとってベストイヤーであったかどうかには正直言いって疑問もありますが、第1回でもあり、過去の蓄積からいえば妥当な選定といってよいでしょう。
 ここで注目すべきは、この3人(団体)はいわゆるコンテンポラリーダンスのジャンルに位 置づけられるもので、その御三家といえる存在です。付け加えますと、大野一雄に特別 賞が与えられていますが、かれは周知のとおり舞踏の大御所です。
 しかし、舞踊にはバレエもありますし、フラメンコのような民族舞踊も大きな部分を占めています。さらに、モダンダンス、わが国において具体的にいうと現代舞踊、もっとはっきりいうと現代舞踊協会系と呼ばれる分野もあります。コンテンポラリー系と現代舞踊系とは明確な区分は難しいのですが、上記の4名は協会に加入していないことはたしかなようです。
 コンテンポラリーダンスや舞踏にはキリンビール、トヨタ自動車も力を入れており、朝日舞台芸術賞と同時に選定されたキリンダンスサポートは勅使川原三郎+KARASに与えられ、トヨタコレオグラフィアワードも審査委員長の山海塾天児牛大はじめ審査員の顔ぶれからはコンテンポラリーや舞踏系に傾斜しそうです。また昨年JCDN(ジャパン コンテンポラリーダンス・ネットワーク)がNPO(特定非営利法人)の認定を受け、さらにコンテンポラリーや舞踏の振興、市場の拡大に力を入れることになるでしょう。一方バレエは観客、お弟子さんの数からも、増加するコンクールからもしばらくf盛況を続けるでしょうし、フラメンコも新たに振興助成財団が発足するなど、全体として上り坂といえます。それに比べて現代舞踊系は率直にいってやや旗色がよくありません。

 ただ、振り返って見ますと、わが国の舞踊界が今日あるのは現代舞踊によるところ大きいといっても過言ではないのです。
 わが国で西洋舞踊(洋舞)の教育が始まったのは1912年、帝劇にジョヴァンニ・V・ローシーが招かれてからです。彼はもちろんバレエを教えたのですが、その下からは石井漠、小森敏飛び出しが、そしてさらに高田雅夫、高田せい子、江口隆哉などが積極的に海外に出て、とくにヨーロッパのダンスを吸収してきたのです。第二次大戦前はバレエの動きもありましたが、舞踊の主流は上記の人たちを中心とするモダンダンス、ノイエタンツ系でした。
 大戦後も、石井漠、江口隆哉、高田せい子、さらに山田五郎、そして伊藤道郎がアメリカから帰国し、小牧正英の帰国によりバレエも急激に発展しましたが、現代舞踊は依然として舞踊界の中心としての存在を保っていたのです。
 たとえば、1948年に結成された日本芸術舞踊家協会、56年の日本芸術舞踊協会ではバレエも含むものの主体は現代舞踊系でした。たとえば会長は舞踊家協会が伊藤道郎、石井漠、芸術舞踊協会では石井漠から高田せい子がつとめていたのです。そして58年にはバレエ部が抜けたあと、72年に社団法人現代舞踊協会が誕生するのです。なお社団法人日本バレエ協会が発足したのはその2年後でした。
 現在の現代舞踊の中心的存在、石井みどり協会会長はじめ多くの幹部が、これらの方々の流れを汲んでいます。

 なぜこのようなことを書いたのか。それは現代舞踊系に、偉大な先人たちの精神を受け継ぎ、自信をもってもっと頑張ってもらいたいからです。もちろん、現在でも協会では多くの会員を擁し、さまざまな公演を主催、また会員であるダンサーや団体も公演を行い、つぎつぎと新作を発表しています。そのなかには素晴らしい作品もたくさんあります。
 しかし、非協会系の団体は上記に加えて、団体は解散したようですが山崎広太、さらにコンドルズ、イデビアンクルーなど、営業活動も積極的で多くのファンをつかんでいます。また、セゾン、アサヒビールなどの企業、パークタワーホール、世田谷パブリックシアターなどの施設、さらにアンクリエイティブなどのマネジメント機関が積極的にコンテンポラリーを応援、マスコミの注目もコンテンポラリーや大駱駝鑑、山海塾、田中泯などの舞踏系に向いています。前記したJCDNも本格的に各支援、助成団体に働きかけを始めています。
 たしかに現代の若い男女にアピールするのは、伝統的な現代舞踊よりも、激しく、またコミカルな手法、コンセプト、ユニークな発想で舞台づくりをしているコンテンポラリー系かも知れません。しかし、現代舞踊系にも優れたダンサーはたくさんいます。伝統的な手法を使っても観客に感動を与えるドラマを作り出すことは可能ですし、品格ある癒しやユーモラスなスタイルも重要です。もちろん伝統的な手法にこだわらない、新しい感覚も必要です。現実にこういう作品もたくさんあります。ただ率直にいって、個々の団体のPRや営業活動が足りないように思います。ぜひその魅力を強く訴えて下さい。
 コンテンポラリー系も現代舞踊系も、お互いに協力し、競い合ってわが国ダンス界の発展に尽くして欲しいと思います。



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