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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.57

「古典の見方、踊りだけでなく演技も

 
ーそれ以外もけっこう忙しいのですー」        
 
2002年6月26日
 

 藤井さんとの意見交換も大分続きました。でも私の気持ちは議論というより、このようなやりとりをとうして古典バレエとは何か、古典を演出するとはどういうことか、について少し考えを深めたいということなのです。で、ここでもうちょっと話を続けさせて欲しいと思います。
 先週末に牧阿佐美バレエ団の『白鳥の湖』を見ました。映画で全国区となった草刈民代さん、いまや最大のアイドル上野水香さん、そしてこのバレエ団の隠し玉 、今回初役の柴田有紀さんと、話題の多い公演でしたが、ここではその演出についてです。ここの演出はテリー・ウエストモーランドさん、基本的にはオーソドックス、物語をきちんと伝えています。1幕の王妃と王子のやりとり、2幕のオデットと王子のやりとりも、きめ細かに意味をマイムと体の全体の動きと表情で伝えています。それ以外にも登場人物の間でこまやかな会話があちこちでなされており、舞台全体に活気を与えています。
 ただ、私にとってはまだ十分とはいえません。例を上げてみましょう。1幕で王妃が来ると伝えます。そうすると貴族の女性たちはあわててさりげなく身づくろいをします。これは大変いいことなのですが、やや形だけ髪の毛に手をやっている人が見えました。もっと気持ちを入れて。それから1幕の貴族や村人たちの退場の部分で王子に別 れをつげるシーン、2幕の幕切れ、王子が飛び去る白鳥(オデット)を見送るシーンも、飛び上がるのと手を掲げながら目で追うタイミング、そしてその時の王子の気持ちの入れ方に工夫が欲しいと思いました。
 ずいぶん細かいことばかり気にしているなと思われるかも知れませんが、もちろん全体の演出意図、役柄づくりも大切です。ただ、私の場合、自分が登場人物で台詞を頭において演じているつもりで見ているものですから、ついあれれ ! 私ならこうする、となってしまうことがあるのです。
 私がいいたいのは、古典バレエにとって、マイムは踊りの邪魔だとか、必要悪だとかいうものでは決してなく、それがきちんと設定され、演じられれば立派な魅力になるということなのです。ぜひこのような見方をして欲しいと思います。
 私の知る限り、日本の古典の演出は最近みんな良くなってきています。外来では、もっとおおまかではっきりいって演出不在、あえていってももっぱら踊りの部分に気持ちがいってしまっている舞台がたくさんあります。この辺も機会があったら確かめてみて下さい。
 幸いにも、このところ、『白鳥の湖』と『ジゼル』の公演が続きます。
 牧阿佐美バレエ団、モスクワシティバレエ団の『白鳥の湖』は終りましたが、今週、6月25日から新国立の『ジゼル』、東京バレエ団の『白鳥の湖』もあります。7月に入るとキエフバレエが『白鳥の湖』、下旬には同じタイミングで小林紀子バレエシアター、井上バレエ団が『ジゼル』を、同じ頃高松の樋笠バレエ団、その後山梨県清里のフィールドバレエでも『ジゼル』が上演されます。とくに、酒井はな、志賀三佐枝、宮内真理子、下村由理恵、島添亮子、藤井直子、島田衣子、川口ゆり子さんなど、わが国のベテラン、新鋭による「ジゼル」役の競演は見ものですし、吉田都さんも8月にピーター・ライト版の『ジゼル』(第2幕)を踊るようです。ぜひ彼女らの演技を楽しんで下さい。

 古典のことばかり書いていると、それしか見ていないではないかと思われるかもしれませんが、もちろんいろいろなものを見ています。スペースの関係で今回は詳しくは述べられませんが、多分始めての体験をしましたので、それに少し触れておきましょう。
 それは2日間で6公演という体験です。1日3本はありますが、それが続いたのは、さすがの私でも記憶がありません。
 それは6月7日(金)、8日(土)です。まず日本舞踊の畑道代さんの主宰する菊の会のスタジオ公演。本格的な古典から楽しく元気な踊りまで、日本舞踊の普及に力を入れています。男性が多いのもここの特徴です。続いて『シモキタ』タウンホールの現代舞踊公演『Les enfants d'or』、金井芙美枝さんのお弟子さんのグループのデビュー公演。いかにも若い女の子の同窓会という感じで、気負いと幼さが共存した魅力がありました。その夜は鍵田真由美、佐藤浩希さんの鍵田真由美フラメンコスタジオ設立10周年記念公演『ARTE Y SOLERA』。鍵田さんは急激に発展しているフラメンコ界最大のホープ、ここでも一流の舞台人だけに見られる存在感を感じさせました。
 2日目は橘浦勇さんの主宰するAOYAMAダイナマイトバレエ団の超「スーパー」バレエ、『南総里見八犬伝』です。タイトルからも分かるように、チョウ物凄いバレエです。でも出演者は大勢の売れっ子男性を集めてチョウ豪華、このような楽しい作品があってもいいですね。次に今年度舞踊批評家協会賞新人賞をうけた馬場ひかりさんのリサイタル『猿と女とサイボーグ』、タイトルとは別 に超マジメな作品。ちょっと理屈が勝った作りでしたが、才能はある人です。最後は小林恭さんの代表作『ノートル・ダム・ド・パリ』。ドラマとしても工夫がこめられていますが、なんといっても、これでもかこれでもかという踊りの洪水で、サービス精神一杯の舞台となっていました。
 もちろんこの前後にも公演を見ています。前日は日本舞踊の大御所人間国宝の西川扇蔵さんの『素の会』、そして翌日はコンテンポラリーの旗手、H・アール・カオスの新作『エラン・ヴィタール』。
 よく、こんなに続けて見てこんがらないかと聞かれます。このラインナップを見て下さい。非常にバラエティに富んでいますよね。それぞれ特徴があり、けっこう楽しませてもらっています。批評家の端くれとしては、見られるものは見ておく、これが私の存在価値なんです。
 でも、ひまだね、というのはやめて下さい。学校の授業、会議、学生募集活動。20日なんか、学校で4つの会合のあと世田谷でパパ・タラを見ました。公立文化施設協会への週1回の出勤。経営関係のビデオ講義2時間×4巻、そのためのテキスト4冊(各625字×70ページ)の締切りも迫っているのです。舞踊関係の原稿は、このHPも含めてこの週はとくに多かったのですが批評主体に6本。
 われながらひどいとも思いますが、あと2~3年が精々でしょう。忙しくできるうちが花かもしれません。




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