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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.60

「舞踊列島日本…各地の状況

 
休み返上、東奔西走のなかから」        
 
2002年8月20日
 

 このページは1回お休みにさせていただきましたが、私はけっして休んでいたわけではありません。たとえば8月3日から12日までの10日間に、次のようなスケジュールで劇場にでかけました。3~4日高岡、大阪、5日東京、6日鎌倉、7~8日名古屋、清里(山梨)、9日東京、10~11日仙台、大阪、12日東京(昼・夜)。10日間に11公演、自宅で寝たのは4日間だけ。8月の1、2日も東京で舞台を見ています。13日も。8月には、このあとも東京以外に名古屋(3回)、京都、兵庫、野辺山(山梨)、近辺では宇都宮、横須賀(2回)、そして9月1日には大阪。藤井修治さんのように海外はありませんが、国内各地を飛び回っています。
 なんでそんなに出かけるのと聞かれると困るのですが、各地で頑張っている団体や舞踊家をできるだけ知って、いろいろな形で広く紹介したいこと、そして励まし勇気づけるためです。少しかっこ良すぎますね。本当のところはお招きいただくからで、しかも踊りが大好きだからです。私の主義としてこちらからお願いすることはありません。むしろお断りしなければならないことがあり、残念だし、申し訳けないと思っています。
 というわけで、この間に感じたことを少し述べ、紹介してみたいと思います。11公演のうち2つはいわゆる現代舞踊です。率直にいって東京にいると現代舞踊はやや不振のように感じられますが、各地、とくに東北、北陸地区では以前から活発でレベルも高く、現在でも健闘しているのです。今回は北陸、富山県高岡文化ホールでは、可西希代子舞踊研究所50周年記念公演が2日間にわたって行われました。可西希代子さんは今から7年前、95年に亡くなられているのですが、48年に研究所を開設してから富山県の現代舞踊界のドン(女性には失礼かな)として北陸地区全体をリードし、多くの人材を育てました。また伝統文化に根差した優れた作品を多数発表、海外との交流にも力を入れ、芸術祭など多くの賞を受けています。希代子さん亡きあとは晴香さんが引継ぎ、研究所の伝統を守り、それを発展させてきました。この日も第1部に可西希代子作品集として彼女の作品を再演しましたが、民族芸能に基づいていてもたんなるノスタルジックなものではなく、現代に通 ずる作舞上のアイディアがあって見応えがありました。ジュニアを加えた晴香さんの「青い鳥」は、踊るだけでなく歌って台詞をしゃべるなどなかなか達者な人材が育っていることを感じさせました。
 これらは今はやりのコンテンポラリーダンスとは全く異なる、いわば対極に立つものですが、どのようなスタイルのダンスでもそれぞれに存在意義があるのです。もちろん、作品の質、ダンサーのレベルが問われますが、これはどのスタイルのダンスでも同じですよね。
 仙台の場合は、東北六県現代舞踊家協会(会長千尋洋子さん)の新人公演でした。これは東北地区の若きモダンダンサーの育成を目的としたもので、中学生、高校生、そして一般 の部にわかれ、それぞれを採点して順に賞を与えるのです。参加27名(組)プラス招待作品(横田佳奈子さん)。ただし、目的は育成であり、激励ですから、全員に何かの賞が与えられるのです。そして翌日からは東京からの指導者(今回は金井芙三枝さんなど)による実技講習が行われています。新人ですからまだキャリアが少なく、レベル的にはこれからのダンサーも多いのですが、高校生などなかなかの素質の持ち主が認められました。
 東北、北陸で現代舞踊がさかんで優れた舞踊家が多いのは、私は石井漠、江口隆哉、そして舞踏の土方巽が東北、そして高田せい子が北陸(金沢)出身など、伝統の力だと思ってるのです。金井芙三枝さんは気候条件にあるといってますが、それもあるかも知れません。いずれにしても現在でも優れた舞踊家が東北に多いのは事実で、この協会のような地道な活動も大きく貢献していると思います。
 バレエについてはほかに批評を書くものが多いので、簡単に感想を述べておきます。
 まず6日の鎌倉は鈴木和子さんのバレエアーツのサマーバレエコンサートです。彼女は谷桃子バレエ団でバレエミストレス、新国立劇場のバレエ研修所の講師をつとめるなど、広く活動していますが、自分のアカデミーでも多くの優れたダンサーを生み出しています。その多くは海外で活躍、あるいは研修中ですが、今回のメダマは、英国ロイヤルバレエのソリスト、古谷智子さんが一時帰国、志村昌宏さんとコッペリアに主演したことです。それ以外にも海外経験者、研修者が多数出演、また来年度(今年9月)にロイヤルバレエに正式入団が決まった平野亮一さんが、特別 にランバートバレエ卒業の新井望さん(ヨーロピアンバレエ)と「ラ・シルフィード」のパ・ド・ドゥを踊るのも注目でした。古谷さんは時差もまだ残っているような状態でしたが、さすがに主役としての演技の幅を見せました。少しふっくらしたのは、あまりやせていてもだめでもう少し肉をつけろといわれていたかららしいのです。石井竜一さん、松島勇気さんの賛助出演もあり、楽しい舞台でした。
 名古屋は北川淑子さん。クラシックとジャズダンス両方の素養があり、ミュージカルなどにも手を染めている人です。レッスンはバレエ主体で、比較的エンターティンメント性の強い分かりやすい作品が多かったようですが、今回はお弟子さんの創作とともに、自分でも少し象徴的なスタイルの作品にチャレンジしてみたということでした。タイトルは「楽園」。アダムとイブがパラダイスを追われるという話ですが、ゴーグルをつけたスイマーや白衣の医者が出てきたり、全員がおなかが大きくなったり、さらに皆で薬を飲んだりと、象徴化、記号化の手法が意表を突くものばかりで、なかなかの刺激を受けました。お弟子さんの作品も突飛なものが多く、この師匠にしてこの弟子ありという感じ。このタイプの振付者には川口節子さんがいますが、名古屋の舞踊界の奥の深さを感じさせる舞台でした。
 もうひとつは日本バレエ協会の全国合同。じょじょに各支部でかたまり、特徴を出そうという方向に向かっているようで、その点は大変望ましいと思っています。そういうことを少し詳しく厳しくこの公演のプログラムに書かせてもらいました。
 ただ、純粋に作品とか出演者という面からは多少魅力が減ったことも事実です。そのためかどうか知りませんが、これを見る批評家が大変に少なかったのは残念でした。それぞれの地域で独自性を出しながらレベルを高めていくという努力を、皆で応援したいものです。
 批評家、評論家としては、自分の趣味に合ったものを見るだけでなく、日本の舞踊界をよくするために積極的に発言、行動して欲しいと思います。




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