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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.63

「クラシック、フラメンコ、ジャズ

 
日本のダンス文化を支えている人たち」
 
2002年10月2日
 

 3題噺ではありませんが、最近拝見した舞台で、とくにご紹介したいと思ったものを取り出したのです。9月の半ばから後半には、大きな話題を呼んだ公演が目白押しでした。外来ではABT(アメリカンバレエシアター)、ボリショイ、キリアン+NDTも始まりました。新国立ではローラン・プチの「こうもり」、パパ・タラフマラ、民間では佐多達枝の新作、松山バレエ団のザ・ジャパン・バレエ、ラ・ダンス・コントラステ、月末には神戸の貞松・浜田、大阪の法村・友井の両雄、モダン、コンテンポラリー系ではシアターXの国際舞台芸術祭、伊藤キム、永谷亜紀、山元美代子。バレエ協会の埼玉 ブロック公演、埼玉県舞踊協会ステージワン、埼玉国際ダンスコンクールなど、埼玉 県ではとくに盛ん。東京新聞のコンクールアンコール公演など、たくさんの舞台がありました。
  これらにはそれぞれ多くの観客、関係者、評論家が集まっています。それはそれで大変結構なのですが、それらの間に、ジャーナリズムではあまり大きな話題にはなりませんでしたが、観客の支持をえ、独特の活動をしている団体の会もいくつも行われているのです。
 そのなかからとくにとりあげたのが、上の3つのジャンルの舞踊のです。
 それは具体的には石原千代バレエスクール発表会(9月16日、栃木県総合文化センター)、依田由利子フラメンコ舞踊団公演「ゼルダ」(9月14日、愛知県芸術劇場大ホール)、そしてアロック・ダンスドラマ・カンパニーのロックバレエ「Voyage~夢乞う逃亡者~」(9月21日、セシオン杉並)です。
 石原千代(以下敬称を略します)は黒沢智子門下、まだお若いのにスクールを開いてもう10年を超え、多くの生徒さん、それも素質のあるジュニアを多数かかえています。今回のは発表会、これはここでは公演にあたるもので別 におさらい会をやっているのです。プログラムは「コッペリア」全幕とジュニアのための「子供の広場」など。「コッペリア」は、高校生になった星野姫を主役に「パキータ」のプリンシパルの同じ高校生の縫谷美沙、さらに多くの中学生、そしてここの卒業生で井上バレエ団で注目されはじめた鈴木直美がソリストで舞台を締めています。もちろん、彼女らもすばらしいし、志村昌宏、大倉現生、相羽源氏らのゲストも豪華なのですが、驚いたのは「子供の広場」です。これはバレエ曲やシュトラウス、ルロイ・アンダーソンなど親しみ深い音楽を使っているのですが、それに出演する幼稚園児から中学生くらいまでの子供たちが、本当に喜しそうに、自由闊達に舞台で踊りを楽しんでいるのです。
 ここで感じたのは、これを見た子供たちはバレエを習いたくなるし、親たちは習わせたくなるな、ということです。少子化が進むなかで、実際にここでは生徒が増えているとのこと。そうなれば当然に優れた素質の児童も増えるということで、意識はしていないのでしょうが、これからのバレエスクールの行き方を示していると思いました。しかも、同じ栃木の藤田恭子さんのところと協力して本公演も続けるとのこと、注目です。
 今、わが国はフラメンコブームといわれています。しかし、フラメンコの有力団体は東京に集中しています。そのなかで名古屋で頑張っているのが依田由利子とそのフラメンコ舞踊団です。ここの特徴は、ドラマチックなものというよりストーリーをもった作品を作り続けていることで、これまでも「赤と黒」、「マクベス」、「マヤ」などを創作上演してきていますが、今回は「ゼルダ」。1920年代に活躍し、当時のアメリカ文化の中心ともなった文学者、スコット・フィッツジェラルドの妻、ゼルダを主人公とし、愛と自立、そしてその崩壊を描こうとしたものです。
 20年代といえばジャズエイジ、ダンスもチヤールストンが全盛。彼女はフラメンコにジャズを取り入れるというチャレンジングな手法を取り上げました。セビリアからのゲストを含め、まだ完全にこの融合に成功したとはいえませんが、愛知県芸術劇場の広い空間と機構を十分に活用した舞台づくりは大変に見応えがありました。ダンサーの人数も多く、第1部のプーロ・フラメンコ組曲も賑やかな舞台、レベル的にはまだ全体としては十分とはいえませんが、舞台のエネルギーはなかなかのもので、将来が期待できます。
 アロックはNYで活躍していた京えりが20年前に帰国、結成したもので、ロック、ジャズをベースに、男性を主体に激しい踊りを見せながら、ドラマチックな、あるいはコミカルな舞台を展開し続けています。海外公演も多かったのですが、一時ちょっと停滞、しかし現在は須貝哲也と大吉広行を中心に、女性も含めてダンサーもじょじょに充実、日本の活動にウエイトを移し、多くのファンをもっています。これには終演後の観客と出演者の交流も大変に役立っていると思います。
 今回の作品は20周年記念で、横浜に引き続き行われたものです。乞食たちが、夢魔(須貝)に操られ、密売の仲間に引き込まれることによって生じるエピソードをシリアスに、コミカルに、そして時にロマンチックに演じ、踊ります。そして最後にはここの定番である全員の激しいダンス、そしてきわめて特徴的な客席への挨拶。少しせりふも入りますが、これからこの線をさらに進めていくかどうか、微妙なところです。
 杉並区文化・交流協会の主催で、これまでのこの団体の活動の場とやや趣が異なっていたためか、少々入りがよくなかったのは残念でしたが、来たお客さんは満足したのではないでしょうか。
 それぞれ、ダンスのスタイルも、組織のあり方も、活動の方法や地域も全く違います。でもそれなりに工夫を凝らして頑張っている。海外に比べると特異であり、これが真に望ましい状況かどうかには疑問もありますが、現実にはこのような団体や人たちが日本のダンス文化を支え、高めているのです。




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