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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.66

「活況を呈する現代舞踊界、ただし中央より各地方に見るべきものが

 
ー再び現代舞踊の現状と問題点について考えるー」
 
2002年11月13日
 

 このところいわゆる現代舞踊が元気です。まず文化庁芸術祭。これまでは日本舞踊が圧倒的に多かったのですが、今年は大阪は別 として東京では26公演のうち、バレエ系を含む洋舞は14公演、そのなかで少し幅を広げると9つか10の公演が現代舞踊系、これは最近にはない傾向です。個々の評価はまだ結果 が出ていないので避けますが、はるばる北九州、山口、名古屋などからの参加もあり、大変に賑やかな状況です。
 芸術祭参加以外でも特筆すべき公演が全国各地で行われています。まず東京組では芙二三枝子さん、もう大変なお年(失礼)なのに、新しい感覚の手法を取り入れた充実した舞台でした。次ぎに竹屋啓子さん、メンバーも充実、活発に公演活動を行っています。そして石黒節子さん、源氏物語にいろいろと新しい試みを取り入れ、来年海外にもっていく計画があるようです。また富山県の芸術文化協会などが主催したとやま舞台芸術祭東京2002が天王洲アイルで行われ、可西舞踊研究所、和田朝子舞踊研究所を主体としたメンバーが大挙来京、充実したプログラムで東京のお客にその存在を示しました。
 さらについ先日9日には大阪の江口乙矢、須美子、満典舞踊団が大阪文化祭に参加して、乙矢さんの現役70周年記念公演を、この5月に残念ながら急逝した満典さんの追悼をかねて、にぎやか、かつ厳粛に行われました。さらにその翌日には仙台で宮城県洋舞団体連合会の主催で宮城県ジュニア洋舞公演と宮城県芸術祭に参加したシニアの洋舞公演が行われ、質の高さと隆盛さを示しました。これ以外にもすでにこのページでとりあげた森嘉子さん、藤田佳代さんの活動もあります。
 このように北に南に活発な公演が行われているのですが、特筆すべきは、東北とともにわが国の現代舞踊界だけでなく洋舞界そのものを引っ張ってきたといえる北陸地区、とくに富山県がユニーク、かつ重要な活動を行っていることです。
 さきに上げた東京進出もそうですが、もう一つ注目すべきは、10月13日に富山県で行われた「モダンダンス・ガラ・イン利賀」です。これは同県利賀村、利賀芸術公演にある日本最大規模の合掌造りの劇場(新利賀山房)で行われた、とやま舞台芸術祭利賀参加のモダンダンスの会です。この山奥にある磯崎新氏の設計による劇場の雰囲気も独特ですが、さらにすごいのがその出演団体です。北から順に能藤玲子創作舞踊団(北海道)、川村泉舞踊団(秋田)、平多浩子舞踊研究所(宮城)、横山慶子舞踊団(福島)、オクダモダンダンスクラスター(愛知)、今岡頌子モダンダンスカンパニー(兵庫)、黒田ダンスカンパニー(福岡)、さらに韓国から韓国江原道舞踊団が参加。地元富山県からは和田朝子舞踊研究所と可西舞踊研究所が実行委員会事務局をかねて出演、和田朝子さんは総合プロデューサーもつとめています。
  主催は実行委員会ですが、社団法人富山県芸術文化協会、財団法人富山県文化振興財団が共催、その上に富山県、利賀村が後援しています。400人ほどのキャパシティですが、富山市内からはバスで2時間以上かかる奥地ながら昼夜2回、それぞれ満員でした。
 個々のメンバーは各地を代表するわが国トップクラスの団体であり、それぞれが個性的で、さらにこの独特の舞台条件を十分に利用した見事な作品を上演、観客を楽しませました。韓国からは2人の女性ダンサーと1人のミュージシャンが出演、新しい感覚と動きでひと味違う舞台を披露。舞台での共演、競演だけでなく、その前後の交流を含めて相互の理解と刺激が、それぞれの団体のレベルをさらに高め、ひいてはわが国現代舞踊界の一層の発展に役に立つといいと思います。
 このように見てくると、わが国の現代舞踊は多くの支援と支持をえて順調なようですが、率直にいって問題も少なくありません。
 その一つの例が、中央のマスコミでは、いわゆるコンテンポラリー以外はほとんど取り上げられないこと、そして観客動員がままならないことです。また舞踊批評家でも現代舞踊はあまり見ないというものが多いのです。
 それはなぜでしょうか、どうしたらいいでしょうか。私はこんな風に考えています。
 まずコンテンポラリー系が受け入れられやすいこと。これは2つの理由があります。一つはどうしても新しいものにマスコミや若い人は飛び付くことです。これは時代でしょうがない面 もあります。とくに今の時代は全体の風潮が破壊とか革新に価値をおくようになっているわけで、どうしても内容よりも形式に重点が置かれがちです。でも、新しいものはいずれ古くなります。もうひとつコンテンポラリー系には観客の共感をうるようなテーマや動きのものがけっこう多いのです。
 一方、バレエは現代的なものが多く語られる一方で、古典は決して衰えてはいないのです。それは観客に訴えるもの、楽しませる部分が多いからです。現代舞踊ではどうでしょうか。この特質は訴える内容と方法が観客にアピールすることであると思います。作品は見る人の共感を得、楽しめるものでなければなりません。その点各地のベテランのダンスには、それがあるのですが、首都園の若手、中堅の作品は率直にいってむずかし過ぎます、分かっているのは自分だけ、いや自分も分かっていないのではないかと思えるような作品が多いのです。その良い(悪い?)例がタイトルです。意味が分からないどころか読めない、発音できないタイトルさえあります。こんな作品でお客さんが親しみをもち、その作品について語り合いますか。音楽もそうです。ポピュラーなものを使うと芸術性が落ちると思っているのでしょうか。むしろコンテンポラリー系の作家のほうが、親しみのある、あるいはレトロな曲をよく使っていることを知っていますか。
 この点それぞれに例外はありますが、現代舞踊系では中央より地方、若手よりベテランのほうが、ごく普通 の観客に支持される作品が多いように思います。
 社会のいろいろな問題、人間のさまざまな側面、こういったものをとりあげて音楽と動きの関係に親しみや快感を感じせさせながら、共感を呼び、感動を与える、こんな作品をつくるには現代舞踊はもっとも適していると思うんです。もちろん、創造は破壊であり、迎合は排すべきだという議論も否定はしませんが。
 いずれにしろ、現代舞踊をもっと多くの人に理解してもらい、楽しんでもらうためにどうしたらよいか、関係者の方々の徹底した議論と実践を望みたいと思います。




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