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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
 
Vol.67

「各地に存在する日本代表候補たち

 
ー舞踊界全体で彼、彼女たちの才能を伸ばす環境をー」
 
2002年11月27日
 

 先週も3日ほど各地をまわってきました。まず名古屋で塚本洋子バレエスタジオ公演、大分県中津で下村由理恵秋季講習会&デモンストレーション、そして大阪でK・バレエスタジオパフォーマンスを見せていただいたのです。
 小生は地方迷士?という異名(悪名)を頂戴しているらしいのですが、お招きを頂いたときにできるだけお断りしないように努力をしているだけで、そんな偉そうなものではありません。第一、中央、地方ということばは、そこに権威がくっついているようで好きではないのです。東京もひとつの地域ですし、むしろ舞踊の世界では東京よりもそれ以外の地域に優れたダンサーがたくさんいます。
 そこで、今回は各地のダンサーについて紹介してみたいと思います。というのは、先日ある雑誌のアンケートの「印象に残ったダンサー」にベテランのダンサーたちをあげて、その理由に、彼女たちを凌駕するダンサーがなかなかでてこないのは残念、というような意味のことを書きました。そして、今回の3つの舞台には、それぞれに10代で将来を大きく嘱望されるダンサーがいるので、このアンケートを思い出したというわけです。
 したがって、会の内容の紹介もしますが、、そのなかでもとくに若い(10代の)ダンサーに焦点をあてることにします。もちろん、それぞれの団体には中堅の素敵なダンサーもいることも付記しておきます。
 まず、塚本洋子バレエスタジオ。このところ深川秀夫さんの作品や演出の上演に力をいれていますが、今回も彼の作品2つにコンテンポラリー系のベン飯田さんの作品を上演しました。ここは以前から若いダンサーを生み続けています。
 現在アメリカで活躍している榊原弘子さん、東京バレエ団でプリンシパルに抜擢された荒井祐子さん、そしてヨーロッパで研修し、昨年から復帰した植村麻衣子さんらは、みなローザンヌのコンクールで素晴らしい成績を収めています。とくに今回の公演で主役として活躍した植村さんは、(あまり女性の年齢を追求してはいけませんが)多分20代に入ったかどうかというところ、彼女も間違いなくポストX(日本を代表する世界的なバレリーナ)候補の1人です。
 ここにはもう1人、ジュニアクラスで素晴らしいダンサーがいます。深川さんの作品で、アシュトンの「バースディ・オファリング(誕生日の贈物)」の同系で、それよりも好きな「グラズーノフ・スィート」の芯を踊った米沢唯さんです。彼女もこのところ名古屋のコンクールでは圧倒的な力で連戦連勝。バランスのとれたスタイルとしっかりした技術の持ち主で音楽性にも優れ、この年代としては表現力ももっています。ぜひ順調に伸びて欲しい逸材です。ここには山本美樹子さん、後藤彩 水さん、それに植村さん、米沢さんと、すこしづつ年代の異なるバレリーナの系列を有しています。
 下村由理恵さんは当然に「X」の1人ですが、彼女は出身地(福岡)に近い中津で定期的に地元の若いダンサーを集めて講習会を開いているのですが、今回は、公開レッスンと、東京から自分のグループ(由理恵バレエアンサンブル)を連れて、合同の舞台(デモンストレーション)を開いたのです。ここではバレエコンサートやレッスン風景とともに彼女の新作「秋の音色」も発表されました。12月末には東京でもバージョンアップしたものを上演するようです。
 さて、地元の受講生は児童主体で、なかなか有望な、きちんとした指導で将来が楽しめるダンサーもいます。しかし今回の注目はアンサンブルの1人浅見紘子さんです。彼女は今年の2月に公文協の「若きエトワールたち」にも出演してもらい、その後の東京新聞全国舞踊コンクール、ジュニアの部で文句なく1位 をとっています。すでに170センチをこえる大型、みごとなスタイルで存在感も十分、テクニックにも急速の進歩を見せています。間違いなく近い将来大きくクローズアップされるでしょう。ここには少しお姉さんの高尾恭代さんもおり、彼女も大型、私はこの2人をツインタワーと呼んでいます。この日は男性日本代表候補佐々木大さんも参加し、みごとなジャンプや回転を見せました。
 大阪のK・バレエスタジオは、矢上香織、久留美、恵子の3姉妹によって経営されています。姉妹らしくない共通 性のない名前ですが、ひとつだけみな頭文字がK、それでK・バレエというんだと思っています。恵子さんはコンテンポラリーの振付者として目下売りだし中、2人のお姉さんはクラシックで、今回のステージでも、クラシックのバレエコンサート、「眠れる森の美女」のハイライト、それに恵子さんの「ame」が上演されました。このスタジオでも多くの優れたダンサーを育てています。新国立の期待、山本隆之さんもここの出身ですが、現在の目玉 は福岡雄大さんです。彼も公文協の「若きエトワールたち」にでてもらっています。国内外のコンクールで常に上位 を争い、今年のジヤクソン国際でジュニア3位に入賞しています。その後ようやくジュニアを卒業、いろいろな公演に姿を見せるようになりました。ここでもいろいろと踊りましたが、圧巻は藤岡あや(彼女もなかなかのダンサー)さんとの「パリの炎」。端整なスタイルと動きはすでに折り紙付きですが、この作品では絶妙な高度のテクニックを披露し、客席を興奮させました。さらにここには久留美さんの息子さん福田圭吾、紘也さんもいます。兄の圭吾さんもあちこちのコンクールで活躍、現在はドイツで研修中です。
 ここで上げた、米沢、浅見、福岡の10代の3人は間違いなく将来のわが国バレエ界を背負って立つ素質と、現在なりの力をもっています。逆にまだ未完成なだけに一層秘められたスケールの大きさを感じます。つまり、これからさらに身につけ、高めなければならないものがたくさんあり、そうなった時に対する期待もまた大きいのです。
 さらに全国を探せば、彼、彼女らに劣らないダンサーはまだまだいることでしょう。
 こういった若いダンサー(クラシックだけでなくモダン、コンテンポラリーも)が、すくすくとその力を伸ばし、発揮する条件をつくるのは、個々の団体や指導者だけでは非常に厳しいものがあります。
 ぜひ、舞踊界全体で彼、彼女たち、すなわち将来の日本代表を育てる環境を作ってもらいたいと思っています。




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