D×D

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオが運営するダンス専門サイト

 

ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと

Vol.74

「2月、3月は新しい息吹き モダン? コンテンポラリー?」

2003年3月19日

 経済についてとくにいわれることですが、かつては2月、8月はニッパチといわれて、1年のなかであまり活発でない時期といわれていました。しかし、とくに舞踊界ではむしろ2月、8月はいろいろな面 で注目すべき時期になっています。8月は別ですが、2月はとくにモダン、コンテンポラリー分野での活動が目立ちます。さらに3月まで、クラシック畑の創作を含めて、新しい息吹が感じられる時期という気がします。
 この点を網羅したら大変な数になりますので、とくに話題を呼んだもの、私が拝見したものを中心に少し考えてみたいと思います。
 2月の上旬は、東京で金森穣さんの旧作によるリサイタル、なお彼は3月の半ばにもバッハのキャノンによる新作を上演しています。話を戻してアートスフィアの森山開次さん、ディー・プラッツでも上杉貢代さんなど。横浜ではバニョレ関係のヨコハマセレクションなどが中旬まで、さらに、合同公演としてすでにこのページで取り上げた、舞踊作家協会、新宿の芸術家協会、そして名古屋の川口節子さんも注目すべき新作を発表しています。
 中旬に入るとこれも前に述べた埼玉 県舞踊協会がクラシック、モダンの創作。そして江原朋子さんが、ソロと、ユニークなゲストを交えた2つの公演を連続して行いました。とくにゲルニカをとりあげた「LOVE ピカソ」は、英米と一緒になって戦争をしようとしているスペインの政府に見せたいくらいでした。京都では望月則彦さんの演出で、女性3人が3つの幕を分担して振付けた「オンディーヌ」が興味を引きました。19日から21日まで代々木で開かれた文化庁と全国公立文化施設協会が主催したアートマネジメントセミナーでは、水と油、砂連尾理と寺田みさこのお2人のデュオユニットがワークショップに、そして森嘉子さんのグループと浅見紘子さんが外山嘉雄さんのデキシーセインツとともに舞台に登場しました。浅見さんの部分は篠原聖一さんの振付です。下旬には、藤井香さんの意欲作「砂の女」、そして合同公演としてすでに取り上げた日本バレエ協会栃木地区、ザ・ネリマ・こぶしの会も新作を発表しています。新作ではありませんがスターダンサーズ・バレエ団がバランシン、チューダー、ロビンスの異色作を上演したのも話題でした。2月から3月にかけては、佐藤一哉さんがシエーンベルグにベースをおいた「ルナティック」、シアターX、パークタワーホールでもさまざまなダンサー、グループを集めてダンス祭、フェスティバルが開催されています。この点はあとで取り上げます。
 さらに3月には河野潤さんの力作「愛ということばが持つ欲望」、現代舞踊協会の新人のための「アンデパンダン」、神戸では藤田佳代さんの「創作実験劇場」、伊丹のAIホールでは、まず若手グループのdots、そして中旬には白井剛さんを取り上げています。中旬には、さらに小川亜矢子さんが主宰する青山ダンシングスクエアが、木佐貫邦子さんの演出でコンテンポラリー主体にクラシックやジャズも加えた「a spring night」、新国立劇場でもダンス・エキジビジョンとしてコンテンポラリー系の新鋭が登場する2種類のプログラムを組んでいます。
 この後もいろいろと興味ある公演が予定されていますが、とくに月末のH・アール・カオスの新作が注目されます。
 上に述べた新国立ではアフリカのダンスグループに加えて、石川ふくろうさん、永谷亜紀さんのAプロ、岩淵多喜子さんのルーデンスと舞踊として初登場の水と油のB、2つのプログラムで興味は大きいものがあります。しかし、今回はとくに国際演劇協会が主催、シアターXと京都芸術センター、名古屋の愛知県文化情報センターが共催、協力して3都市で行われたアジアダンス祭・会議と、新宿のアートタワー・アートプログラムが主催するパークタワー・ネクスト ダンス フェスティバルの2つで感じたことをとりあげてみたいと思います。
 両者ともにダンス系のメンバーが集まっていますが、前者はアジアということで韓国、マレーシア、バングラデシュ、フィリピンなどからもダンサーや指導者が来て、作品だけでなくシンポジウムを行ったという点は違っているのですが、それ以外の日本のアーチストにも特徴があります。
 パークタワー・アートプログラムは3組の団体が2日づつ公演を行っていますが、ネクスト ダンスというくらいで、みな若手であり、いわゆるコンテンポラリー系であるといえるでしょう。それに対して、アジアダンスの方は川村浪子、妻木律子、石井かほる、馬場ひかりさんたちで、それぞれに個性的ではありますが、どちらかというと現代舞踊、舞踏系のベテラン、中堅の参加で、両者の違いなどを改めて考える機会になりました。
 この違いというと、まず現代舞踊系はここの出演者だけでなく、全体的にまず表現すべき観念があって、それを動きその他(音楽、秘術など)で表現しようとする、そこに意味の抽象化、象徴化のプロセスがあるのです。また手法としては基本はアン・ドオールの動きやポウズを近代的な美意識のもとに、作品を意味づけ、表現するために構成しています。それに対してパークタワーの方の、坂本公成さん、ニブロール(矢内原美邦さん)、山田うんさんなどでは、他のアーチスト団体、たとえば珍しいきのこ舞踊団でもコンドルズでも基本的には同じですが、あまり抽象化は考えずに日常的な動きや、相互の関係をほとんどそのまま舞台に乗せています。つまり出演者がそのまま登場人物なのであり、そこに記号性、シンボル的な意味性を与えようとしているようにみえます。あるいは見るほうでその具体性、個別 性のなかに普遍性、共通性を感じ共感するのかも知れません。全体の流れもよくいえば意表をつく、あるいは超文脈で、動きのスタイルは日常的なもののほかには、オフ・バランスのアン・ドウダン(内へ/内股の動き)が目につきます。
 この中間もあります。たとえばH・アール・カオスは作品のコンセプトは現代舞踊に近い、つまり観念の抽象化から動きへの転移がみられるのですが、動きそのもののスタイルや技法はいわゆる現代舞踊とは大分異なっています。勅使川原三郎さんも動きの点ではもっと離れていると思います。わが国でいう現代舞踊とコンテンポラリーとは動きを創造するに際しての「美」にたいする意識が違います(たとえば膝や爪先、あるいは群舞の同調性など)が、舞踏の場合には、さらにコペルニクス的な美意識の転換がみられます。
 こう考えてくると、たとえばH・アール・カオスと珍しいきのこ舞踊団との違いの距離と、それらと芙二三枝子舞踊団との距離とどちらが遠いか、なかなか難しい問題になりそうです。
 つまり作品の観念や表現(伝達)に重点をおくか、動きのスタイルや空間構成の斬新性、革新性を重視するかによってその作品(創作者)の評価が異なってきます。もちろん、これはどれが優れているか、どれを好むかということとはまったく別 です。この辺がきちんと割り切れないところが芸術の本質なのかもしれません。

 




掲載されている評論へのご意見やご感想を下記連絡先までお寄せ下さい。
お寄せ頂いたご意見・ご感想は両先生にお渡しして今後の掲載に反映させて頂きます。
また、このページに関する意見等もお待ちしております。
 
mail:video@kk-video.co.jp