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幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
Vol.78 「「ファン」が社会的地位 を高める」
 
-魅力的であるための意識、努力も必要ー

2003年5月13日

 今回は、少し「ファン」について考えてみようと思います。「不安」ではありません。確かに、戦争大好きのどこかの大統領とその手下の亡国、じゃない某国の総理大臣がいる現在、いつどこで戦争がはじまるか、とても「不安」です。芸術の力でこの「不安」をなくしたいですね。でも、ここでは「ファン」。昔はこのことばが分からなくて、英文で「大勢のファンで埋め尽くされた」、というのを、「大勢の熱気で扇子が一斉に使われた」と訳したという話を聞きました(ファンには扇という意味がありますが、でも本当かね)。
 もちろんファンは「熱狂的な愛好家」という意味です。なぜこれを取り上げるのかというと、そのきっかけは次のようなことからです。先日あるかたが公文協に訪ねてこられました。それは、ホール、文化施設とアーチスト、とくにモダン、コンテンポラリーダンスをつなぐような仕事をしてみたいということでした。意義ある仕事ですが、それは簡単な話ではありません。前からこのページで何回も書いているように、残念ながら現在の公立文化施設では積極的に自主事業を行おうというところはまだあまり多くない。もしあっても、音楽、演劇、その他演芸などで、舞踊関係を主体に取り上げようというところはないのです。
 これは社会全体の風潮であり、施設の担当者の認識の問題であり、さらにアーチストサイドの問題も大きいのです。もちろん、クラシックやコンテンポラリーの一部にはホールで買ってもらっているところはあります。しかし、大半は自主公演というとかっこいいのですが、実態は持ち出しで場所を借りて公演しているわけです。たしかに、入場料収入だけでペイさせようというのは、ミュージカルや大衆演劇を除けばきわめて難しいことです。でも、オーケストラやオペラ、バレエ、ダンスでも多くの出演料を手にしている人はいないわけではありません。
 ここでテーマが現れるのです。そういう人は、多くのファンをもっている、つまりお客が集められるのです。そこで、話を舞踊界に下ろします。わが国のバレエ、ダンス関係でお客を呼べる、ファンをたくさんもっている人がどれだけいるかということです。
 この点に関して、最近いろいろなところでそれを感じさせる舞台に接しました。日程順で上げてみますと、4月末の東京芸術劇場での館形比呂一さん(『レディ・マクベス』)。客席は超満員、終演後は彼に拝謁?したいという女性たちが楽屋の前に長蛇の列を作っていました。5月初めの松山バレエ団、森下洋子さんの『ジゼル』は別 格として、驚いたのはこうべ洋舞コンクールでの福岡雄大さんです。まだ十代ですがすごい人気。コンクールでの演技なのに、客席は大騒ぎ、静かにというアナウンスも彼だけにはギブアップ、表彰式でも当然の大人気、何回も客席から呼び出されていました。聞くところによるとかれのホームページは大変な人気なんだそうです。事実、彼のは「見せる」踊りです。
 さらに驚いたのはグランディー バ・バレエ団、ご承知のように男性だけのバレエ団です。初日は完全にコメディタッチというかパロディの『白鳥の湖』第2幕、ややまじめなグラン・パ・ド・ドゥ、吉本風大爆笑の『瀕死の白鳥』、そしてほとんどまじめなシンフォニック作品『Semi Precious Stones』でした。毎年日本で長期公演、今年も全国各地で五十数公演が予定されているのです。この日もオーチャードホールは満員、ほとんど、私の感じでは95パーセントが女性、それも平均年齢はけっこう高いようです。そしてすごいのは、途中でもそうでしたが、フィナーレのあとに殺到するファンの波、私の見たところでは全体で50以上の花束やプレゼントが客席から舞台の出演者に手渡されていました。これだけの数ですから、主催者側のサクラではなさそうです。ヨーコ・モシモシィさんという失敬な名前の東洋系のバレリーナが一番人気みたいでした。余談ですが、前にコンクールなどで活躍した日本人瀬川哲治くんが加入、けっこういい味をだしていました。ちなみに彼は昔の名前で出ています。
  さらに、つい先日の博品館劇場での薔薇笑亭SKD(バラエティ)です。これは10年ほど前に解散したSKD、松竹歌劇団から、レビューへの魅力絶ちがたいメンバーが十数名が集まって、国際劇場なき後あちこちの劇場で継続して公演を続けているのです。率直にいって、舞台の豪華さも出演者の質量 も、当時からみたら大分劣ります。でも、踊り主体に音楽も結構楽しめますし、7回公演、往年のファンだけでなく新しいファンもついてきているようです。  
 ここまで、最近のいくつかを列挙してきました。いずれも多くのファンを集めています。ここでファンを別 の言い方をしますと、血縁や友人でなく、義理でもなく、本当にその作品、団体、出演者が見たくて劇場にきた人ということになります。もちろん、それが最初はたまたまとか、フリー(振り)の客だったものが、じょじょに固定客になるし、追っかけになるわけです。
 それには、作品が面白く、出演者に魅力がなければいけません。さらにファンへのサービスも大事です。率直にいって、現在の舞踊界で、お客さんを楽しませるために作品を作り、舞台で演技し、さらにお客さんにサービスし、ファンを作ろうと努力している人や団体がどれだけあるでしょうか。それはお客にこびることではないとしても、少なくともお客にとって魅力的であって、この作品をまた見たいと思うか、このダンサーをまた見にきたいと思うか、これを意識することは絶対に必要です。あるいは、積極的にその魅力をPRすること、魅力をつけるように努力することです。その素質のある人はいるのですから、その売り込みを専門に行うセクション、あるいは担当者を備えることも大事です。
 もちろん、自分のやりたいことをやるんだ、それが受けなければそれでいいという考え方があってもかまいません。しかし、それではホールや興行師はなかなか買ってくれないでしょう。一番いいのは、自分も楽しく、それがお客さんにも楽しいということです。
 ということで、もう一つ最近の例を上げておきましょう。それは5月初めの北沢タウンホールにおけるDANCE創世記での中野真紀子さんの作品『波のバラード』です。これは海岸で戯れる若き女性群像という雰囲気で、ハワイならぬ 沖縄の音楽主体でフラッぽい楽しいダンスを踊り、ビキニスタイルのお嬢さんまで登場します。タマちゃんらしき生物も沖縄まで遠距離遊泳したようです。これだけはほかのモダンダンス作品とはまったく違った作風をもっていました。これが作品として完全な、レベルの高いものかどうかはこの際問いません。重要なのは中野さんのような、モダンダンス界の知性派、研究熱心な人が、こういった作品を作る気になったことです。もちろん、このような軽い乗りのものだけがいいわけではありません。ずしんと心に響くドラマチックなものでもいいし、ものすごくかっこいいものでもいいのです。
 要は、ホールの企画担当者や興行師が、これならお客さんが楽しんでくれ、満足してくれると思うような作品、ダンサーたちがもっともっとあって欲しいということなのです。私も微力ながらこの点について書いたりしゃべったりしています。それが舞踊界全体の社会的経済的地位 を高めることにつながるのではないでしょうか。

 

 




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