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ニュース・コラム

ロンドン在住・實川絢子の連載コラム「ロンドン ダンスのある風景」

ロンドン ダンスのある風景

Vol.3夏の野外ダンス・イベント

 
 このところロンドンは熱波の到来で厳しい暑さが続いている。日本のようなムワッとした湿気はないため過ごしやすいものの、痛いくらいに日射しがきついので、外を歩くときはサングラスが手放せない。数週間前まで雨の続く日も多かったが、いよいよ本格的な夏が、それもつかの間の夏がロンドンに訪れたようだ。英国では、6月から8月くらいにかけての間、夜9時過ぎまで明るいこともあって、長くて暗い冬に備えて少しでも長く日を浴びようとばかりに、野外イベントがそこかしこで行われる。
 
 
   
 シェイクスピア劇で有名な野外劇場や、芝生の上で生ビールを飲みながらライブ音楽が楽しめるフェスティバル、映画の野外上映会など、野外イベントの例を挙げればきりがないが、ここ数年話題になっているイベントとして、英国のエネルギー企業BPが主催する「サマー・ビッグ・スクリーン」というイベントがある。これは、ロイヤル・オペラハウスでおこなわれるバレエやオペラの公演を、英国各地にある広場に設置された大スクリーンで生中継するという画期的な試み。オペラ・バレエ観客層の拡大のために始められたもので、なんと無料で行われている。先日6月3日にも、ちょうど吉田都が主演したバレエ「オンディーヌ」が中継されたばかり。この日30日の夕方も、たまたまトラファルガー広場を通りかかると、オペラ「椿姫」の生中継をしていた。広場はぎっしりと人で埋め尽くされており、私のようにたまたま通りかかって足を止めた風の人もいれば、折りたたみ式の椅子を持参し、ワインやサンドイッチを広げてピクニックを楽しんでいるグループもいて、なかなか面白い光景だった。
 
 
   
 
 
 この日のお昼休みには、セント・ポール大聖堂前の広場で、セントラル・スクール・オブ・バレエとイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールの生徒たちによるダンス・パフォーマンスが行われていた。シティ・オブ・ロンドン・フェスティバルというフェスティバルの一環として行われており、これまた無料である。客席は、寺院前の大階段。
 
 
   
 
 
 大聖堂は人気の観光スポットだけに、観光客も多かったが、このあたりは、イングランド銀行をはじめ大銀行、保険会社、株式取引所などが密集するエリアなので、お昼ごはんを買いに出てきたスーツ姿の人たちがしばし足を止めてダンスを鑑賞する姿も見られた。
 
 
   
 
 
 生徒たちが踊ったのは、コンテンポラリー、クラシック、ヒップ・ホップとジャンルもさまざまで、親しみやすいものばかり。カンカンと照りつける直射日光に、生徒たちの身体から迸る汗が白く光って眩しかった。
 
 
   
 
 
 セントポール大聖堂の重厚な建物の前で、「眠りの森の美女」などを踊る生徒たちの後ろでは、ロンドンのシンボルである赤い二階建てバスが行き交う。暑い夏の日差しの下に見えたその光景は、なんだか蜃気楼をみているかのように非現実的で、少し眩暈がしたくらいだったが、私にはそんなつかの間の夢を見ているかのようなロンドンの夏が、なんだかとても愛おしいものに思えた。
   
實川絢子
實川絢子
東京生まれ。東京大学大学院およびロンドン・シティ大学大学院修了。幼少より14年間バレエを学ぶ。大学院で表象文化論を専攻の後、2007年に英国ロンドンに移住。現在、翻訳・編集業の傍ら、ライターとして執筆活動を行っている。