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ニュース・コラム

ロンドン在住・實川絢子の連載コラム「ロンドン ダンスのある風景」

ロンドン ダンスのある風景

Vol.15英国のチャリティ

3月の震災から2ヶ月。3月中は、こちらでも連日日本のニュースがトップニュースとして報道され、街中を歩いているだけで知らない人から「あなたの家族は大丈夫?」と声をかけられるほどだった。母国を離れて実際に震災を経験しなかったということになぜか後ろめたいような感覚を覚えると同時に、震災関連のニュースをむさぼるように読んで、実態がよくわからないだけに不安ばかりを募らせる毎日。たぶん、海外在住の日本人がほとんど同じ思いでいたのだと思う。英国にいる沢山の日本人も、「何か自分たちにできることはないか」というもどかしい思いを、ささやかながらも次々と形にしていった。例えば、留学生が折り紙募金活動を行ったり、寿司や日本の料理を作ってチャリティセールを行ったりしたほか、ダンス界でも、吉田都さんが中心になって震災後すぐの3月18日にロイヤルバレエ団の日本人ダンサーたちがチャリティ公演を行った。行動に出たのは在英日本人にとどまらず、今月も、5月28日には、セントラル・スクール・オブ・バレエにて、ダンス・チャリティ・イベント「ダンス・フォー・ジャパン」が開催される予定だ。有名ダンス教師を招いてのダンスクラスやワークショップ、イングリッシュ・ナショナルバレエ団やバレエ・ブラックなどの公演など、登録料15ポンドで一日中盛りだくさんのプログラムが楽しめるほか、チャリティTシャツなども販売される予定になっている。イベントの収益はすべて英国赤十字を通して震災の義援金として寄付されるそうだ。


http://www.facebook.com/pages/Dance-For-Japan/202923936392081/

登録:http://www.justgiving.com/julia-davies86

こうしたイベントを通して、改めて気づかされたのが、英国人の間にいかに〈チャリティ〉という感覚が浸透しているかということ。例えば、チャリティ公演のチケットが15ポンドだったとしたら、何の躊躇もなくその何倍もの値段をさっと出す人が沢山いる。通常の舞台公演でも、チケット代を支払う際、バレエ団や劇場への寄付金を上乗せして支払う人が少なくない。そしてチャリティと言えば、この国で避けて通れないのが〈チャリティ・ショップ〉。英国には各街に必ずといっていいほど何軒ものチャリティ目的のリサイクルショップがある。運営団体は英国赤十字、オックスファムをはじめ、医学研究や国際支援、環境保全、社会的弱者支援(病弱児や孤児、ホームレス、精神や身体的障害者)などを目的とするNGO団体で、市民から提供された衣服、本、雑貨などを販売している。英国人の間には、いらなくなったものは、捨てるよりチャリティ・ショップに寄付するという考えが浸透しているし、思わぬ掘り出し物が安く見つかる上にチャリティへの寄付になるから一石二鳥、と言うことでチャリティ・ショップめぐりを趣味にしている人もいるくらいだ。普段あまり感情を表に出さず、冷たいと受け止められることも多い英国人だが、このチャリティへの理解と懐の深さはずば抜けていると思う。これはいまだに残る階級社会の影響も大きいのだと思うが、そんなことを抜きにしても、英国に暮らす人々の行動力と思いやりに心動かされることが数多くあった2ヶ月間だった。

實川絢子
實川絢子
東京生まれ。東京大学大学院およびロンドン・シティ大学大学院修了。幼少より14年間バレエを学ぶ。大学院で表象文化論を専攻の後、2007年に英国ロンドンに移住。現在、翻訳・編集業の傍ら、ライターとして執筆活動を行っている。