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ニュース・コラム

幕あいラウンジ バックナンバー

Vol.1 2005.2/5
「チェコ・スロヴァキア公演報告」

街頭で貼られたポスター
 私たちダンスワークスは、東京メトロポリタン・バレエを組織して、チェコとスロヴァキア4都市で公演を行って来ました。

一行26名は11月26日成田を発ち12時間でウイーンに到着。そこからバスで約1時間30分、国境を越えスロヴァキアの首都ブラティスラバ近郊のホテルに無事到着。明くる日、早速劇場側スタッフと打ち合わせの為午前中にブラティスラバのスロヴァキア国立劇場に入りました。外観も内装も伝統的なヨーロッパのオペラハウス。客席は舞台との距離が近く、どこの席からも見やすく4階まである素晴らしい劇場です。

 今回のヨーロッパ公演では、あらかじめ渡しておいたビデオや資料によって、テレビ局がコマーシャルを幾度も流し、またポスターが町のあちこちに貼られていたために、初日とチェコ・ブルノではチケットが既に完売と聞かされていました。
 緊張と期待と不安の入り交じった気持ちで初日を迎えることになるのですが、なお一層不安な事が私の中にはあったのです。それは今回持って行った2番目に上演する23分の「闇の中の祝祭」という作品の作曲家の事です。チェコとスロヴァキアがまだ共産圏で一つの国だった頃、指導的立場にいた一人にユリウス・フチークという人物がおり、作品「闇の中の祝祭」に使っている音楽の作曲家はその叔父に当たる同じ名前の人なのです。フチークという名前を出すと、現在のチェコとスロヴァキア人はウウッと顔をしかめる程。事実私たちを招聘してくれた人からも、はじめはこの作品は上演出来ないかもしれないと言われており、そこをあえて私は上演したいのだと交渉した経緯があったのです。
 思想やイデオロギー、又宗教などの違いから世界中で争いごとが絶えないのは、現在に至ってもますます顕著になっている状況で、どちらの側でもその争いごとで失われていった多くの命がある以上、その人命に対する捧げ歌がこの作品なのだということを、テレビや新聞、ラジオなどのインタビューに答え平和への気持ちを訴えたのです。

 こうして初日を迎え、はじめの作品「Shinra」(森羅)の幕が上がりました。「Shinra」は2001年新国立劇場のコンテンポラリーダンス ダンステアトロンNo.6で上演した「森 羅」の改訂版40分の作品です。ドヴォルザーク、ヤナーチェクと、共にチェコスロヴァキアの作曲家の曲に振り付けたものです。 森が更に連なった森羅の最小単位 の一本の樹に、亡くなった親しい者の魂が宿っていると感じ、さらにその数が増していった時に体験した事から生まれた作品です。 群舞、デュエット、ソロとダンスが進む中、日本ではなかなかあり得ない事ですが、一景ごとに暖かい拍手をもらい、ダンサー達の気持ちも高揚して行き作品が進むうちにより作品が成熟してゆく感を強く持ちました。ラストのシーンで群舞が走り抜け幕が下りると大変な拍手。 次第に一斉に歩調を合わせた拍手に変わり、幕の上がるのを待っているようでした。 しかしこの日は何故か、はじめの作品の後はカーテンコールをしないと決めていたので、大きな暖かい拍手を背にして楽屋に戻りました。しかしその後の公演からはカーテンコールに答えることになりました。

 そしていよいよ「闇の中の祝祭」です。暗黒の中に響くフチークの曲が始まると場内は静寂と緊張に包まれ、観客席からは誰一人として足を踏み鳴らしたり、ブーイングするものはおらず、それどころか一景と二景と終わるごとに大きな拍手が沸き、袖で控えていた私は安堵で胸を撫で下ろしました。 実はこの作品は1991年初演からすこしづつ加えてゆき再演を繰り返し、今回新たに三景を曲どおりに加えた部分があり完成版として上演しました。 三景全てが終わると拍手の渦に包まれ、何度ものカーテンコールを用意していなかった我々はとまどいを隠せない状態でした。

 こうして初演を無事に終え、次のチェコ第2の都市ブルノの大変大きなヤナーチェク劇 場。そしてブラティスラバからバスで8時間、スロヴァキアの第2の都市コシシェのキノキャピトル劇場。プレショフのこれまた大きなザブルスキー劇場と公演を続けました。心配していた後半2会場もほぼ満員となり、どの会場でも観客は正装したカップルが目立ち、バレエやオペラなど舞台芸術を心から楽しむ文化が育まれていることを痛感致しました。 我々は初演の時のカーテンコールの不用意をin反省して、2回目からは独自の挨拶の仕方を考えそれをしたところ、どの劇場でもスタンディングオベーションは続き、特にコシシェでは7回ものカーテンコールに答えることになり、最後には手を振って舞台を後にするという幸せな経験をすることになりました。

 海外では、東洋的なものを好む傾向がありますが、私たちの作風は常日頃から日本的なものを特に意識するものではないので、今回もあえて海外だからといって日本的なものを強調しない作品、しかも音楽は全て当地の作曲家で臨みましたが、結果 的にはそれが大変成功たのです。

 今回の公演で一番大変だったのはスタッフです。ある時は夜10時から午前3時まで、またある時は朝5時からホテルを出て劇場に入り、英語の通 じないあちら側のスタッフ、劇場システムの違いを全てクリアーして整え、滞りなく舞台稽古が出来る状態にしてくれたことは大変に素晴らしく感謝の気持ちで一杯です。

 海外で公演をすることは、特に今回のように大人数で公演するには様々な問題が山積しています。契約書、大道具の輸送、出演者スタッフの渡航費を含めた経費、健康等。それら多くの問題をクリアー出来たことは大きな成果 であると思う反面、色々と反省するべき事も多くあり、次につながる海外公演へのいい経験としたいと今思っています。

 東京メトロポリタンバレエの公演はこれからも計画しています。 今後とも皆様の暖かいご支援、ご協力を切にお願いする次第です。
 
■東京メトロポリタンバレエURL:
http://www2.odn.ne.jp/tokyo-metballet/
 
■現地で撮影したビデオの一部がご覧になれます。
「森羅」 「闇の中の祝祭」 「現地ツアー」
作品動画
(画面サイズ480×360・1.7MB・32秒)

作品動画
(画面サイズ320×240・892k・32秒)
作品動画
(画面サイズ480×360・2.9MB・53秒)

作品動画
(画面サイズ320×240・892k・53秒)
作品動画
(画面サイズ480×360・2MB・38秒)

作品動画
(画面サイズ320×240・892k・53秒)
 
■東京メトロポリタンバレエメンバー
出演者;        
野坂 公夫 坂本 信子 明尾 真弓 近藤 明美 堀江 真紀
平田 友子 岡田 光代 高岡 由美 高橋 利枝 高田 真琴
山口 智子 西澤美華子 河口 志保 平多理恵子 小松あすか
陽 かよ子 川村 昇 松永 雅彦 伊藤 拓次
         
スタッフ;        
杉浦 弘行 河田 康雄 Lang Craighill 佐藤英生 マリアンナ原田