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幕あいラウンジ バックナンバー

  2004.8/11
「盆踊りの季節」

 8月の旧盆の季節は、日本国中至る所で盆踊りが展開される。中でも規模の大きさと賑やかさ、そして古い伝統ある行事として有名なのは四国徳島の‘阿波踊り’ではないだろうか。近頃では町興しの手だてとして、あちらこちらの町々で‘ご当地阿波踊り’なるものが催されていて、正に観光のための格好の材料にされている面もあるが、“踊る阿呆に、観る阿呆 同じ阿呆なら、踊らな損々!”と、数ある日本の盆踊りの中では、陽気さと親しみ易さでは抜群の人気を誇っている。
 “手を挙げて、前へ進めば阿波踊り”と言われているように、振りそのものはさほど難しいものではない。アドリブ性も加味出来ることが、若い人たちにも受け入れられ易い大きな要素となっている。盆踊りの良さは参加しようと思えば誰でも参加出来ることにある。
 しかも人間は誰しも踊ることによって、最高の開放感を得ることが出来る。気心の合う仲間と連を組んで踊れば気持ちは更に高揚する。只、そうはいっても基本的な振りが単純なだけに、見られた姿が格好悪くては話にならない。それだけに如何に姿勢(しな)よく踊れるか。
 “踊り踊らば姿勢(しな)よく踊れ 姿態(しな)の良いのを嫁に娶(と)ろ”と唄われているように、阿波踊りは特に個々のパーソナリティーが問われる踊りでもある。
 もう一つこの踊りの特徴は‘阿波よしこの節’の情緒溢れるメロディーと陽気なリズムが表裏一体となって、えもいわれぬ味わいを醸しだしていることだろう。
 徳島は昔から芸事の盛んなところと聞いている。かつては良家のお嬢さん達も芸の一つも身に付けるべく稽古に励んだといわれる。そして年に一度、この阿波踊りの日に町中を流して日頃の成果を披露することが許されたのだそうである。身分、素性を知られぬよう鳥追い笠を目深に被り、賑やかな連の踊りが繰り出される前に、気の合う者同志が連れ立って唄や演奏を披露する。又は熱気漲る踊りの興奮が過ぎ去った夜中過ぎ、老夫婦が仲良く三味線の爪弾きで街中を流して歩く。そこには、あの喧騒な踊りの渦とは違った静謐な世界がある。無論、今このような光景を目にすることは出来ないだろうが、正にこれこそ本来の阿波踊りという感じがする。そこには静と動の織りなす詩的情景が浮かび上がって見えてくる。エネルギッシュな連を組んでの踊りも魅力的だが、一方のこうした情緒溢れる習慣が、いつの間にか消えて無くなったというのは、時代の流れだといえばそれまでだが、なぜか残念な気がする。