
王子役といえばこの人といわれるほど、逸見智彦は日本では数少ないノーブル・ダンサーだ。
気品ある踊りと相手役を大切にする優れたパートナリングは、常に高く評価されてきた。
率直な彼の話には、穏やかで温かみのある人柄がそのままにじみ出ている。

バレエ団や発表会などいろいろなところでお仕事なさっていますが、どんな舞台で踊っても逸見さんは変わらないといわれています。とても誠実なダンサーだと。
発表会だから手を抜くっていう考えは僕の中にはなくて、見に来る人は関係ないですから。
逆に、バレエ団で主役を踊っているのにこの程度?って思われるのはバレエ団に泥塗っちゃうことになる。だからよけいプレッシャーはあるんですけど。でも考えてみると、確かにバレエ団で踊っている時よりは発表会ではちょっと自分も楽しんじゃうかな、っていうところはあります。
それは共演の人たちにとっても楽しいことでしょうね。
逸見さんがそもそもバレエを始めたのは確かお姉様がきっかけで。
はい、小学生の時、姉が二人ともバレエを習っていたので、迎えに行っているうちに誘われて。そこには吉本泰久君がいたんで、それで続けられたんだと思います。
そのあとは、バレエを中心にして学校なんかも選んだりなさったんですか。
そうですね、最初はバレエを続けるために私立を受験して明星学園に入りました。ここは牧阿佐美先生、大原永子先生、川口ゆり子先生も勉強したところで、わりと自由な校風で。それでバレエ以外にもいろいろ目がいってちょっと集中できなくなった時に、親が学習塾をやっていたもので、高校受験をして八王子の都立に行きました。

バレエをやっていることで、からかわれたりとか、好奇の目で見られたりしたことはありましたか?
なかったですね。小学校の時には多少からかわれて、バレリーナをもじって「リーナちゃん」と呼ばれたりしたことはありましたけど(笑)、発表会にクラスの子が来てくれたり、中学はおもしろい子たちばかりで「すごいな」って言われたり。そういえば高校では僕、放送部だったんですが、卒業の祝賀会でヴァリエーションを2曲踊りましたね、「白鳥の湖」と「ラ・シルフィード」の。
それは素敵なことですね。
ダンサーになりたいと、高校の時には決めていましたか?
牧先生が主宰されてるAMステューデンツも僕は入ったのが遅いんです。そもそも、うちはそんなにバレエに熱心じゃなかったので、どうするの、やりたいならやればというぐらいで。
だから、ほんとなら卒業したら自分の生活費ぐらい自分で稼がなきゃいけないんだろうけど、25歳ぐらいまではすっかり親がかりになっていましたね。
舞踊も演劇も舞台芸術の方たちは、ご本人はもちろんたいへんですが、ご家族の理解と応援が必要になりますものね。
親がダンサーで稽古場があったりすれば、そこで自分も教えたりとかできるけど、うちはまったく違ったので。
ある程度の年齢になると、お友達は社会人になって仕事を覚え始めたりしますね。
結婚する友達もいたりする。焦ったりはしませんでしたが、自分には全然そんなことは考えられないくらい生活が不安定で。
でもとにかく踊っていられることが幸せだった。
先生にもバレエ団の仲間にも恵まれていましたし。姉たちもバレエはやめたけど、友達を連れて見に来てくれたり、僕のホームページを作ってくれたり、家族ぐるみで応援してくれています。

ご自身は、悩んでバレエをやめようと思ったことはありましたか。
バレエで失敗して悩んでということはありませんでしたね。
とりあえず言われたことが出来てからのことかな、と、わりと早い時から、そう思っていた。
結局、何かいろんなことを選ぶのは自分を作ることになるから、最初から否定しないでやってみようと。だから、ほかのことで悩んだりしても逆にバレエに集中して、踊ることで忘れてきた、ということはありますね。
怪我で苦労なさったことは?
わりと怪我しない体質で30過ぎまではなにもなく、35歳ぐらいまではたいしたこともなくやってきたんです。つい最近に膝を手術したことはあるんですが、それも良性の腫瘍が腱のなかにできたので、とったほうが楽かな、と。
手術を決めたあとに、新国立で「白鳥の湖」を妻と組んで踊るように牧先生からすすめられて。手術が12月の年末で舞台が翌年の5月の末で、半年はリハビリ期間が必要だからどうしようかなと考えていたら、妻に押し切られて(笑)。失敗したらバレエ界から去るぐらいの覚悟でおやりなさい、と、そこは牧先生も厳しいんで(笑)。急ピッチでリハビリをやって、今は完治したみたいで膝の調子もいいんです。
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