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(2019.5.7 update)

伊藤範子 Garden vol.34

音楽と溶け合った振付は、ドラマティックで骨太で説得力があり観客を惹きつける。
今、最も注目される伊藤範子作品の数々。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

 

フリーの振付家として活躍している方もいますが、ご自身はそれを考えたことはありますか?

私は、谷桃子バレエ団でコール・ドから始めてプリマになって、いろいろな役を踊らせていただいてきました。自分が作品をつくる時にも、ちょっと変な動きをやってみたいというのではなくて、やっぱりドラマ中心の動きをつくりたい。古典をまず踊って主役をやらせていただいたこと、そういう谷桃子バレエ団での経験が、私の土台になっています。これから年を重ねるに伴い経験することもあると思うので、そこから学び、吸収して作品に生かしていきたいと思っています。

 

近年はヨーロッパでも踊りの場面を省略するオペラ演出家も多いですね。

海外では踊りを軽視する演出家もいますが、私がご一緒させていただいているオペラ演出家の粟国淳さんは、踊りのことをとても理解してくださっています。踊りのない作品でも「範子さん、こういう動きやって」と振付を依頼してくださる。粟国さん演出は今年の6月にも「愛の妙薬」をやりますし、1月には藤原歌劇団の「椿姫」も踊りの部分を振り付けました。

「椿姫」はテレビでも放映されました。リハーサルなどで忙しいかもしれませんが、バレエダンサーはなかなかオペラの舞台を見ませんね。

逆のことも言えてオペラの人たちもバレエをなかなか見に行きません。ただ、新国もオペラに新国のダンサーが出演する機会が増えました。海外ではもちろん劇場のバレエ団のダンサーが出演していますよね。

 

日本の国立のバレエ団が、国立のオペラに出演することが当たり前になりましたね。いろいろなところで今のダンサーを見ていらして、感じること、望むことはありますか?

一番に言えるのは、早く答えを求めすぎること。時代の流れなのかもしれませんが、私たちは調べものでも図書館に行ってノートをとったりしましたが、今はネットで検索すればすぐに情報も得られるしユーチューブもあるから海外の情報や振付も簡単に見られる。しかたがない面もあるけれど、もっと時間をかけて積み上げていけば、自分のものになるし、心から観客を納得させられるダンサーになれるんじゃないかな、そこを突き詰めていく若い世代が増えるともっと面白くなると思う。

伊藤さんが振り付ける時に心がけていることは何でしょうか。

かたちや振りを強制するのではなく、その人を生かす振付をするということですね。
もちろんベーシックなクラシックのテクニックはきちんと持っていることは第一条件ですが、テクニックでもこちらの要望したことができなければ、それならこれはどう?という感じで振り付けていきます。

 

どのようなダンサーが良いと思いますか。

やはり独自の個性、人間的な魅力があること。酒井はなさん、小野絢子さん、米沢唯さん、池田理沙子さん、バレエ団の三木雄馬さん、皆さん、素敵な人ばかりです。チャコットのシリーズでは私自身が直接、出演をお願いしていまして、その人が今まで見せたことのない部分までを引き出せたらいいなと思って、お客様が、この人はこんなところがあるんだと感じてくれたらいいなと。

このあとのご予定は?

谷桃子バレエ団も七十周年を迎えます。アカデミーの発表会が8月にあって、バレエ団自体は7月に「ピーターパン」と「白鳥の湖第2幕」を上演します。私の振付の仕事としては秋に、町田で「くるみ割り人形」の2幕があります。ゲストに浅田良和君と秋元康臣君が出演下さいます。

 
 

谷桃子バレエ団公演

「ピーターパン」

・会場:めぐろパーシモンホール 大ホール

・日程:2019年7月20日(土)

 
林 愛子 (インタビュー、文)
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、'80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。